「カフリンクスをしているから〝フォーマル〟」
は間違い
こんにちは。
このブログは、〝洋服屋の一生モノブログ〟というタイトルからも分かる通り、キーワードは、〝一生モノ〟です。
「〝一生モノ〟というフィルターを通してモノを見る」ことで、世の中に氾濫したモノを一度篩(ふるい)にかけ、本当に良いモノだけを抽出していこう。というのが大きなテーマです。
【1】歳を重ねて初めて似合うようになるモノ
突然ですが、皆さんの中で、
「もう少し歳を重ねたら、自分にも似合うようになるかなあ…」
なんて思いから、密かに用意しているものはありますか?
僕には「40歳くらいになったら、つけようかな」と思い、密かにコレクションしているものがあります。
それは、「カフリンクス」です。
先に、紹介しておきますね。
服装の中には、
「ある程度歳を重なることで、初めて似合うようになるモノ」
がいくつかあると思います。
その中のひとつが、スーツ・スタイルでの「カフリンクス」の着用です。
「カフリンクス」とは、ドレスシャツやブラウスの袖口を留める〝装飾具〟です。

スーツスタイルに着用されたカフリンクス
【2】カフリンクスの歴史と由来
「カフリンクス」はそれ単独で生まれたものではなく、常にドレスシャツと共にあり、ドレスシャツと同時発展してきた〝装飾品〟です。
現在の〝ドレスシャツ〟の原型が生まれたのは、16世紀のフランスだと言われています。
当時のドレスシャツは袖口に穴を開け、そこにリボンや紐を通して袖口を留めていました。
これが〝カフリンクスの原型〟と言えるでしょう。
この頃のリボンや紐の役割は、あくまで
「袖をまくる」という行為と、「布が手首を自然に包み込む」
ということを前提としており、
そういう意味で、かなり実用性が優先されていました。
しかし、さらに時代が進み17世紀に入ると、袖口の仕様は次第に、もうひとつの重要な役割を与えられるようになります。
それが、「装飾性」です。
そしてこの時与えられた役割が、現在のカフリンクスにそのまま受け継がれていくのです。
宮廷ファッションが絶頂に達したルイ王朝下の17世紀〜18世紀は、国王や貴族たちが、自分たちが身に付けるものを豪華に飾り立てることで、権力と富を誇示した時代です。
中でも群を抜いていたのが、ルイ14世です。

ルイ14世肖像画
服飾史上、この頃のヨーロピアン・スタイルの牽引役は、フランスの宮廷ファッションでした。
この頃、ドレスシャツの袖口には豪華なフリルがつけられ、そこに、これまた豪華なスリーブ・ボタンが装着されました。
それは、宝石と宝石を貴金属のチェーンで繋ぎ合わせたもので、この上なく贅沢な装飾品でした。
宝石と宝石で袖口(カフ)を繋ぎ合わせる(リンクさせる)
これが「カフリンクス」の語源だとと言われています。
そして1840年、ドレスシャツの袖の仕様に「フレンチカフス」が登場したタイミングで、カフリンクスもほぼ現在の形になりました。
【3】「カフリンクス」を使用することの難しさ
17世紀〜18世紀にかけて花開いた、フランス宮廷ファッションに起源を持つ「カフリンクス」。
これをスーツスタイルの中に組み込もうとすると、非常に難易度が高く、
相当スーツスタイルを熟知した男性でないと、エレガントに使いこなすことはまず不可能です。
少なくとも僕はそう思います。
理由は2つあります。
①スーツ自体がクラシックなモノであることが大前提
1つ目の理由は、
上質なスーツの用意があり、さらに自身の経験として、
クラシックスーツの着こなしを熟知していることが大前提となるからです。
なお、ここで言うクラシックの定義は「最高級の」という意味であり、
決して「古典的な」「懐古主義的な」というモノではありません。
質の高い生地と副資材を選択し、質の高い縫製技術で仕立てられたスーツを指します。
②シャツ・ネクタイなどとの調和が重要
2つ目の理由は、
「カフリンクスの選択」は、クラシック(上質)なスーツの用意が整い、それに見合う上質なドレスシャツを着て、ネクタイを締め、ジャケットを羽織り、
最後に「じゃあ、カフリンクスをどうするか。」といった類のお洒落だからです。
その時、最後の最後で、キャラクターもののカフリンクスや、安物のカフリンクスでは、全てが台無しになってしまうのです。
ですから、
〝カフリンクスを装着できるような男性〟になるには、
クラシックスーツに対する自分なりのアプローチが必須であり、
それには、最低でも10年〜15年くらいはかかる。ということです。
現在、世界で一番クラシックスーツとカフリンクスが似合う人物は、チャールズ皇太子でしょう。
チャールズ皇太子が時折見せる、カフリンクスを止め直すような仕草は有名ですが、そこからは、この上ない〝紳士の気品〟が感じ取れます。
カフリンクスも含めた全てのものが、クラシックスーツと見事に調和しています。
【3】「カフリンクスをしているから〝フォーマル〟」は間違い
このように、カフリンクスの使用には、
高度な「センス」と「前提となる経験値」が要求される、ということを踏まえると、
とうとうビジネスの場で、ネクタイをしなくなった(ひどい場合、ジャケットすら着なくなった)現在の日本人ビジネスマンには、もはや必要ないアイテムであることがわかります。
ですが、驚くべきことに、ピタピタのスパッツのようなスラックスに、ノーネクタイでシャツのみを着て、
袖口に、これ見よがしのカフリンクスを装着し、極め付けにリュックを背負った、若いビジネスマンを良く見かけます。
くしゃくしゃになったジャケットを腕に抱えているので、いざという時は、そのくしゃくしゃの
〝ジャケットらしきもの〟
を着るつもりでいることだけは、辛うじて伝わってきます。
こんな人を見ると、思わず
「こんな身なりの人ができる仕事なんて、きっとたかが知れているんだろうな…。誰か忠告してあげれば良いのに…」
という気持ちになります。
どうやら、こういった若いビジネスマンの意識の中には、
「カフリンクスをすれば、ちょっとでもフォーマルに見えるのではないか」
「カフリンクスをすれば、ちょっとでも洒落物に見えるのではないか」
といった、安易な考えが蔓延しているようです。
本来は、
「フォーマルスタイルには、カフリンクスが必須である」
「品格の備わった人物がカフリンクスをすると、洒落て見える」
というのが正解です。
先程のチャールズ皇太子のスタイルを振り返れば、一目瞭然ですよね。
現在の政治家も含めた、日本人のスーツ・スタイルを眺めていると、
「〝国家的に〟ジャケットとネクタイを捨て去った、日本の男」が、
〝本当の意味で〟カフリンクスを使いこなすことは、ほぼ絶望的になった
と言わざるを得ません…。
追記:一生モノストアでカフリンクスの取扱いを始めました!
せひ一度アクセスして、じっくりとご覧ください!
【参考文献】
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