2つのモカシン【Moccasins】
「北米式」と「スカンジナビア(ノルウェー)式」
こんにちは。
久しぶりの〝一生モノの靴〟シリーズです。
これまでは、ドレスシューズばかりを取り上げて来たので、
今回は「モカシン・シューズ」について、詳しく触れていきたいと思っています。
では、さっそくご紹介します。
僕の〝一生モノの靴〟の中から、『ランコート(RANCOURT)』のマッドガード・ブーツとレンジャー・モカシン・シューズです。
【Brooks Brothers(RANCOURT )のマッドガード・ブーツ】
【Brooks Brothers(RANCOURT)のレンジャー・モカシン・シューズ】
『RANCOURT』は、1964年にアメリカ・メイン州で創業したシューズメーカーで、創業者のDAVE RANCOURTは、元コール・ハーンの靴職人だった人です。
特徴は、「モカシン・シューズ専門」のシューズ・メーカーというところです。
北米の伝統的なハンド・ソーイングによる〝モカシン製法〟を守り続け、今に伝えてくれている、世界的に見ても存在価値の高いシューズ・メーカーのひとつです。
そのクオリティの高さは当初から評判で、これまでにも「Brooks Brothers」や「Allen Edmonds」「Ralph Lauren」のシューズを永きに渡り作り続けています。
今回紹介した2足も、RANCOURT製のBrooks Brothersのシューズです。
【1】〝モカシン〟とは一体何か?
ではここからは、「モカシン」の起源や歴史について見ていきましょう。
「モカシン(Moccasins)」とは一般的に、
「底から側面までは、一枚の柔らかい革で包み込むようにして作られ、その上の甲部分にU字型の革蓋をかぶせ、その結合部分は革紐や糸で頑丈に縫い付けられている」靴を指してそう呼ばれます。
アメリカでは、略して「モックス(Moccs)」とも呼ばれます。
【モカシン(Moccasins)の形状】
【2】2つのモカシン 〜北米式とスカンジナビア(ノルウェー)式〜
実は「モカシン」の歴史を辿っていくと、2つのルーツに分かれます。
つまり、歴史上2つの「モカシン」が存在していたということです。
それが「北米式 」と 「スカンジナビア(ノルウェー)式」と呼ばれるものです。
では、ひとつずつ説明します。
①北米式モカシン
これは、いわゆる『インディアン・モカシン』のことを言います。
【ネイティヴ・アメリカン】
この「インディアン・モカシン」は元々、北米インディアンのアルゴンキン族が履いていた履物に由来します。
当時の製法は、柔らかい鹿革で足全体を包み、そのまま革紐で縛ってまとめ、甲にはU字型の革蓋を縫い合わせるといったもので、
最大の特徴として、
甲部分を、ビーズやヤマアラシの棘(とげ)を染色したモノで刺繍するなど、実に豪華な装飾が施されることが挙げられます。
【Web上より画像を転載】
今でも『ミネトンカ(MINNETONKA)』などで、こういった伝統的な「インディアン・モカシン」の仕様を垣間見ることが出来ます。
②スカンジナビア(ノルウェー)式モカシン
これは、以前ローファーの記事(『アイビー・リーガー達のおまじない』)でもその起源を少し触れましたが、
「ノーウィージャン・モカシン」と呼ばれているものです。
その起源は、スカンジナビア地方の農民や漁民が履いていた作業靴で、
さらにこのシューズの元を辿れば、「ヴァイキング」に行き着くでしょう。
「ヴァイキング」とは、800年〜1050年頃に侵略行為や海賊行為をしていた、スカンジナビア半島やバルト海沿岸の武装船団としてのイメージが強いですが、
実際は、この時期にスカンジナビア半島やバルト海沿岸に住んでいた人々全体のことを言います。
彼らの多くは、農民や漁民でした。
【一般的に知られているヴァイキング(Wikipediaより)】
【ヴァイキングの靴(Web上から画像を転載)】
彼等、スカンジナビア地方の農民や漁民が履いていた靴は当初、
写真のようにブーツ型の深履きのものから、短靴型の浅履きのものまで種々あったようですが、
時代の流れとともに、浅履きのスリップ・オン型のものが主流となっていったようです。
その頃には北米式同様、U字型の甲革が被せられ、その結合部は頑丈に縫い込まれました。
それが、「スカンジナビア(ノルウェー)式モカシン」です。
【3】北米式とスカンジナビア(ノルウェー)式の違い
しかし…
この2つには、モカシン部分の縫い方に違いが見られました。
北米式「インディアン・モカシン」は、革紐で荒く〝寄せ縫い〟されただけの簡易的なものであったのに対し、
スカンジナビア式「ノーウィージャン・モカシン」のそれは、太い麻糸を使用し袋縫いに仕上げるという、非常に緻密な手法だったと言われています。
そして、この「ノーウィージャン・モカシン」の製法が、その後脈々と受け継がれ、現在ローファー(正式名称;ノーウィージャン・フィッシャーマン・シューズ)として、堂々と僕たちの前にその姿を現してくれています。
これも、
「僕達が先人の知恵を、知らず知らずに享受している」
ということの好例ですね。
【参考文献】
コメント