人はなぜ「衣」を必要とするのか
〜「衣・食・住」について考える〜
こんにちは。
この〝洋服屋の一生モノブログ〟ではたまに、
「そもそもなぜ〜なんだろう?」といった、
素朴な疑問について書いているシリーズがあるのですが、
今回はそれをやります。
テーマは…
〝そもそもなぜ人は「衣」を必要とするのか?〟です。
【1】人は裸では生きていけない
「衣・食・住」とはご存知の通り、人間が生きて行く上で必須の3条件です。
その中で「衣」は1番先頭に位置するものです。
これが生きる上での重要性の順番なのか、単なる語呂合わせなのかは判然としませんが、
この順番でいくと、
人はまず「衣」を必要とし、
次は「食」で、人は「衣」を身につけて物を食べ、
そのあとは休息の為の「住」が必要になる。
ということになります。
では、人はなぜ「衣」を1番に必要とするのでしょうか。
それは人が、裸では生きていくことができないからです。
ひとつ例を挙げます。
①公園で男がシートを敷いて、寝そべっている。【住】
②手元には皿があるが、いつも食べ物は何も載っていない。【食】
③その男は、何も着ていない。【衣】
この男は、どうなるか…
最初に会った人によって直ちに通報され、自由を奪われます。
理由は言うまでもなく、この男が何も着ていないからです。
つまり、「衣・食・住」の中で、人にとってそれがないと真っ先に〝異質〟とみなされるのは、「衣」なのです。
ですから、人はまず最初に「衣」を必要とするのです。
【2】人の特権としての 「衣」
当然のことですが、動物や鳥には「食」と「住」はありますが、「衣」は存在しません。
冬の日に、家の前で寒そうにポツンと座ってる猫を見て「衣」を与える人はいませんよね。
餌をあげる(食)か家に入れてあげる(住)かのどちらかでしょう。
つまり、
「衣」とは地球上の生物の中で、ヒトにだけ与えられた特権であり、
そうである以上「衣」は、他の2つにはない「特別な性格」を備えていなければならないのです。
【3】パブリックな「衣」・プライベートな「食」と「住」
と言うことで、ここからは、
「衣」とその他の「食」「住」が属する、〝領域の違い〟について見ていきましょう。
例えば僕たちが、仕事で誰かと関わりを持つとき、
その人がどこに住んでいようが、
日常どんな食事をしていようが、
こちらとしてはまるで関係のないことで、
関係があるのは、〝目の前にいる相手〟だけでなのです。
もらっても迷惑でしかない〝名刺〟なるものをばら撒くことが、日本人はとにかく好きですが、
そこにもどんな家に住み、普段どんな物を食べているかなんてことが刷り込まれている訳もなく、
僕たちがその人を判断する基準というのは、
相手が裸でない限り、「服装」しかないのです。
このようにして見ると、
「衣」と「人」は常に一体となって存在しており、
そういう意味で「衣」というのは、多くの場面で〝パブリックな領域〟に属していると言えます。
言い換えれば、
人が文化的生活を営む上で、唯一「衣」だけが、必ず他人と関わり合いを持たなければならないモノなのです。
対照的に「食」と「住」は、
人にとって極めて〝プライベートな領域〟に属します。
「食」は金がなければ、それなりの物を食べればいいわけだし、
「住」だって要は、雨風をしのげればいいわけです。
極端な話をすれば、
パブリックな場での「衣」さえしっかりとしていれば、
毎日カップラーメンを食べ、漫画喫茶から通勤しても、誰にも文句を言われる筋合いはないのです。
【4】それを踏まえての「服飾」の重要性
現代社会において、
①「食」と「住」は、プライベートな性格を持ち、自由度が極めて高く、
②「衣」は、パブリックな性格が極めて強く、他人の目に晒されることが
大前提となる。
ということを踏まえた上で、「服飾」というものを考えてみると、
「衣」は、他人の目に晒されることが大前提であるからこそ、
時と場所、自分自身のポジションに応じたそれなりの〝スタイル〟が暗黙のうちに要求されるのです。
この〝暗黙の要求〟に答えることが、「服を着る」ということの本来の意味なのです。
【5】日本の現状
にも関わらず、日本という国はどうでしょうか。
■シワだらけのスーツに、ただ首にゆるくぶら下げられたネクタイ、足元にはお決まりの〝ぎょうざ靴〟を装着したビジネスマン…
■クールビズがすっかり浸透した夏場は、白の半袖シャツ1枚で、まるでピクニックにでも行くかのようなリュックを背負い、黒い靴に茶色のベルトを平気で巻いて歩くビジネスマン…
■ホストが着るようなスーツを着て、ニュースを伝えるアナウンサー…
果たしてこれで〝暗黙の要求〟に応えられているのでしょうか…?
自分が毎日着ている「衣(服)」は、常に他人の目に晒されている。
このことを、日本人は真剣に考えないと手遅れになる…
そういう危機感を感じているのは僕だけなのでしょうか…。
【参考文献・引用】
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