〝服を大切に着る〟ということ【3】
〜ブラッシングと虫干しの習慣〜
こんにちは。
前回の〝服を大切に着る〟ということ【2】で、クリーニングの落とし穴について書き、
■クリーニングは、どうしようもない汚れがついた時に限定しましょう。
■「1シーズン着たら、とりあえずクリーニングへ」という、この習慣をやめましょう。
■クリーニング店は、慎重に選びましょう。
とお伝えしました。
だからと言って、
1シーズン着込んだ服を、「そのまま放置して良い」と言っているわけではありません。
では、クリーニングに出す代わりに何をすれば良いのか。
簡単なことです。
ここでも先人達が、昔から習慣としてずっとやっている〝基本〟を、忠実に真似させて頂くだけです。
それは、
①毎日10分間の〝ブラッシング 〟と、
②年に2回の〝虫干し〟です。
これを習慣にすると、よっぽどの緊急事態でない限り、
〝服をクリーニングに出す〟という安易な発想自体がなくなります。
【1】先人の知恵 〜毎日10分間の〝ブラッシング〟〜
まず、なによりも大切なのがこの〝ブラッシング〟です。
西洋では古くから、ブラッシングの習慣が根付いており、
現在も〝英国王室御用達〟という栄誉を与えられている、洋服ブラシメーカー『KENT』の創業は、なんと240年前の1777年です。
丁寧な〝ブラッシング〟の習慣が服をメンテナンスする上での「基本中の基本」である。
ということを、ぜひ覚えておいてください。
ですから「家に洋服ブラシがない」というのは、論外なのです。
必ず、自分専用の洋服ブラシは持っておくべきです。
これが、服に対する〝最低限のマナー〟です。
ブラッシングの仕方は、
例えば1日着たスーツの場合だと、
まず家に帰ったらスーツを脱ぎ、
ジャケットとスラックスを別々にハンガーに掛け、
風通しの良い場所で陰干しし、水分をとばします。
十分に風が通り乾いたら、丁寧にブラッシングをしていきます。
ブラシは、できれば馬毛などの、柔らかくてコシのあるモノが最適ですが、豚毛でも構いません。
コツとしては、
手首のスナップを効かせながら強めに、リズミカルに行い、
繊維の奥にまで入り込んだ埃を掻き出していく感じです。
まずは、
①上から下方向へブラッシングを行い、しっかり埃を掻き出します。
次に、
②下から上方向へ、同じことをします。
最後にもう一度、
③上から下方向に、今度は毛並みを揃えるようにブラッシングします。
これを、ジャケットの「前身頃」「後ろ身頃」「両袖」、
スラックスを半身にして、「外側」「内側」と丁寧に行ってください。
こうして全体が終わったら、細かい部分も忘れずに。
特にジャケットのラペル裏や、カフを作って仕立てられた「ダブル」のスラックスなど、
埃や汚れがたまりやすい場所は、必ず一度ひっくり返して、丁寧に埃を落としてください。
そして、
木製で厚みのあるハンガーに掛けて、2〜3日休ませてあげましょう。
洋服のメンテナンスというのは、実は、
基本的にやることはこれだけなのです。
言葉にすると、面倒臭さそうに聞こえますが、
10分もあれば終わります。
これを〝習慣〟として、1日のルーティンに組み込めるかどうかで、
あなたの大切な洋服の運命が、大きく変わってきます。
【2】愛用の洋服ブラシ
ここで、僕が愛用している洋服ブラシを紹介しましょう。
【KENT 洋服ブラシ】
【素材は馬毛の柔らかいもので、カシミヤなどの繊細な生地にも最適です】
【3】先人の知恵 〜年2回の〝虫干し〟〜
豊かな四季が巡る日本では、古来から〝虫干し〟という手入れ方法が存在します。
晴れて空気の乾燥した日に、衣類や書物・絵画などを陰干ししてカビを防いだり、虫を追い出したりする伝統的な日本の風習です。
現在でも毎年秋に行われている、奈良・正倉院宝物殿の〝虫干し〟は大変有名ですね。
従来虫干しは、年に3回、土用の日を使って行われてきました。
土用… 季節の節目である〝4立〟(立夏・立秋・立冬・立春)直前の18日間のこと。
①夏の土用 →7月下旬〜8月上旬の梅雨明け後の晴れた日
②秋の土用 →9下旬〜10月上旬の秋晴れの日
③冬の土用 →1月下旬〜2月上旬の冬晴れの日
高温・多湿な場所を好む〝害虫やカビ〟は、
風通しが良く乾燥した環境では生きられないため、毎年これらの時期を使い、追い払っていたのです。
先人達が生活の中から考え出した、素晴らしい〝知恵〟のひとつです。
つまり、
現代を生きる僕たちは、この先人達の知恵をただただ忠実に、継承すれば良いだけなのです。
考えてもみてください。
洋服に使われている素材、特に天然繊維は、
基本的に、「毛」・「綿」・「麻」・「絹」であり、
これは100年前からほとんど変わっていません。
だとしたら、
当時のやり方を、現代にそのまま継承してもなんら問題はないはずです。
ということで皆さん、
〝虫干し〟をやりましょう。
僕は、現代版として年に2回でいいと思っています。
①夏の土用(7月下旬〜8月上旬)
→夏に発生のピークを迎える害虫やカビ菌を予防する。
②秋の土用 (9月下旬〜10月上旬)
→夏の間に付いた害虫やその卵・カビ菌を追い払う。
やり方は、
■風通しのいい部屋での陰干し(直射日光は厳禁)
■時間帯は、午前10時〜15時までの7時間
■前日が雨だった日は避ける(湿気が残っている場合があるため)
■陰干ししたあと、ひとつひとつ丁寧にブラッシングをして収納する。
これを年間行事として組み込めれば、もうクリーニングの必要はありません。
家計から、「クリーニング代」という馬鹿馬鹿しい支出が消えてなくなりますね。
そんなことより何よりも、
日本人が世界に誇るべき「最大の魅力」・〝四季〟を、
体全体で感じることができるという観点からも、
実に〝美しい風習〟だと思いませんか?
【4】〝自分が楽なこと〟ではなく、〝服が喜ぶこと〟をしよう
「毎日の〝ほんの10分の手間〟と、年2回の風習」を惜しまなければ、
いつしか洋服の方からあなたに〝感謝の意〟を返してくれるようになります。
それは、〝体への馴染み〟や〝美しい生地の光沢〟、大切に着古された時に出る〝生地の味わい〟などとなって必ず表面化してきます。
なぜなら、
天然素材で丁寧に作られた服というのは、〝生きている〟からです。
〝服は生きている〟からこそ、
〝自分が楽なこと〟ではなく、〝服が喜ぶこと〟をしましょう。
〝服を大切に着る〟ということは、そういうことです。
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