〝心の身支度〟
〜なぜ、シャツに釦が7個も付くのか〜
突然ですが皆さん、
「なぜ、シャツに釦が7個も付いているんだろう?」
と疑問に思ったことはありませんか?
袖の釦も含めると、正確には7個ではなく11個ですね。
(※両袖の剣ボロ付近に付く、ガントレット釦も含む)
ヨーロッパ諸国の貴族階級の間には、
ドレスシャツはまだまだ〝下着〟という感覚が強く残っており、
当然彼らは素肌の上にそれを着用しています。
そして、キュッとネクタイで首元を締め、ベストを着、その上に颯爽とジャケットを羽織ります。
【※Webから画像を転載】
人前で〝シャツ1枚の姿になる〟ということは、パンツ一丁になることと同じですから、貴族階級の感覚ではまずありえません。
こうなると、ますます謎が深まってきます…
そう、スーツスタイルにおいて、
本来人目に触れることがない〝下着〟としてのドレスシャツに、
なぜ、釦が11個も付くのか。
そこには、
〝見られるために装う〟
という、貴族階級の人々が生まれながらにして背負わされた〝宿命〟
が大きく関係しているのです。
【1】〝見られるために装う〟貴族の宿命
昨今、日本でも〝格差社会〟が問題になっていますが、
とは言え、それを身に染みて実感するような〝階級社会〟ではありません。
しかし、スーツの発祥と発展を担った英国では、
王室を頂点とした〝階級社会〟が、
現在でも潜在的にではありますが、色濃く残っています。
(※日本にも「皇室」があり、天皇陛下を代表とする皇族の方々がおられますが)
中でも、〝Upper Class(上流階級社会)〟の人々というのは、
主に「王室」・「貴族」・「大地主」で構成されていて、
こういった階級の人々は、常に羨望の的として自国民を始め、世界中の人々の目に晒されます。
遠く離れた日本に住んでいても、
チャールズ皇太子や、ウイリアム王子の近況には事欠かないのですから、
本国では、大変な注目度なのでしょう。
このような階級の人達の〝装い〟というのは、
常に〝人々に見られるためもの〟
でなければならないのです。
【2】〝スーツスタイル〟と釦の数
ここで、釦の話に戻ります。
■下着である〝ドレスシャツ〟に11個
■ベストに最大6個
■ジャケットに最大11個(3つ釦・袖釦4個・本切羽の場合)
■トラウザーズに最大6個(前開きがクラシックな釦留めの場合)
■サスペンダー装着用に6個(Y型サスペンダーの場合)
これだけの数の釦を留めなければ、スーツスタイルが完成しないこと。
その上でさらに、
タイを締め、サスペンダーやガーターで必要な部分をきりりと締め上げなければならないこと。
考えてみると、
こうした一連の行為が、果たして何の為のものなのか。
ますます不思議です。
【3】戦いに向かう際の〝心の身支度〟
その答えは、
戦いに向かう際の〝心の身支度〟を整える為
ということに尽きます。
「釦をひとつひとつ丁寧にはめていく」という行為は、
国家を代表し、大切な場に出るに当たっての〝心の身支度を整える〟という性質を持ち、
これは、
兵隊やプロのアスリートが、戦いの前に軍靴なりスパイク・シューズの紐をしっかりと結ぶことにも通じる
極限状態での〝準備行動〟とも言えるのです。
ですから、
〝下着〟であるドレスシャツ からネクタイ → スラックス →サスペンダー → ベスト → ジャケットと、
順番にゆっくりと釦を留め、締めるべきところをゆっくりと丁寧に締め上げ、隙を埋める。
スーツスタイルを完成させるこの〝過程〟において、
精神的な覚悟が決まり、〝心の身支度が整う〟
これこそ、貴族階級の人々が生まれながらに背負わされた、
〝見られるための装い〟なのです。
ドレスシャツに付く11個もの釦は、
上記のようなスーツスタイルの本質から考察すると、
大舞台に出ていく人にとっての、
〝心の身支度を整える〟
という重要な役割を担っていると言えます。
もっと言えば、
本来〝仕事の為に、スーツを着る〟ということは、
自身の姿が、大勢の人の目に晒される、
「職場」という〝大舞台〟に出ていくに際し、
〝心の身支度を整える〟という意味を持つはずなのです。
しかし、
このような本来的な考えが浸透しない日本では、
相も変わらず、国をあげて安易な〝クールビズ〟を推奨し、
5月〜10月までの半年間、ビジネスマンは
ドレスシャツ1枚の姿 (= パンツ一丁の姿)で働いているのです。
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