スウェットシャツの来た道【1】
〜〝スエットシャツの母〟「ジャージ(Jersey)」〜
こんにちは。今年は珍しく、順調に秋の空気に入れ替わりました。本当に、気持ちの良い季節です。
こういう季節の変わり目に、毎年僕がクローゼットから引っ張り出して着ているのが、「スウェットシャツ」です。
日本では〝トレーナー〟と呼ばれているものですね。
じつはこれは「和製英語」で、欧米では通じません。トレーナーは1950年代に、VANの石津謙介氏が命名したものです。
石津謙介氏は「ネーミングの天才」で、他にも〝スイングトップ〟や〝T.P.O.〟など、僕たちが当然のように使っている造語を、現代に残しています。
〝トレーナー〟も、「トレーニングウェア」というイメージから、「トレーナー(指導者)が着るもの」と繋がっていったのでしょう。
となると、
「先生、僕たちトレーニー(指導される側)は何を着たらいいのでしょうか?」
という質問が返ってきそうなものですが。笑
と、雑談はここまでにしまして…
今回は、スウェットシャツが辿って来た、「意外と長く、非常に深い」その道のりについて、何回かに分けてお伝えしたいと思っています。
ぜひ、最後までお付き合いください。
【1】スエットシャツの誕生に欠かせないもの
スエットシャツの誕生を語るにあたって、決して欠かすことのできないものが、2つあります。
ひとつは「ジャージ」というマテリアル
もうひとつは、「フットボール」の発展です。
「フットボール」というスポーツと、「ジャージ」というマテリアルがあったからこそ、スエットシャツはこの世に誕生した、と言っても過言ではありません。
いわば、
「ジャージ」は、〝スエットシャツの母〟であり、
「フットボール」は〝スエットシャツの父〟なのです。
【2】〝スエットシャツの母〟「ジャージ」とは何か
「ジャージ」を日本の服飾辞典で引くと、〝メリヤス〟と出てきます。
〝メリヤス〟は漢字で「莫大小」と書き表され、これは「大小莫し(なし)に合う」という、メリアスのストレッチ性を強調したものです。
もともとは、ポルトガル語の「meias(メイアス)」が語源で、「長靴下」という意味です。
江戸時代の長崎で、ひとりの日本人が「これは何か?」と異人に訪ねたところ、
その異人は、「これは、meiasで(メイアス)である。」と答えました。
これをその日本人が、「ほうっ、〝メリアス〟か。」と聞き間違えたのです。
こうして、「長靴下」から始まり、「薄手の編み物全般」を指す言葉として、日本では広く認知されています。
と、確かに靴下も「編み物」であり、ヨーロッパにおいて「編み物」と「靴下」の歴史が、密接に結びついていることも事実なのですが、
しかし、スエットシャツの誕生に深く関係してくるのは、「靴下」ではなく、「フィッシャーマンズセーター(漁師のセーター)」なのです。
そもそも「ジャージ」を固有名詞としてみると、イギリス海峡に浮かぶチャネル諸島最大の島、「ジャージー島」のことを指します。
そこで古くは13世紀頃から、地元の漁師達に着用されてきた、「フィッシャーマンズセーター」が「ジャージーセーター」であり、
これが、「ジャージ(Jersry)」の語源です。
ちなみに、ジャージー島のすぐ近くに、「Guernsey(ガーンジー島)」という島があり、この島の漁師達が、同じく13世紀頃から着ている「フィッシャーマンズセーター」が、日本でも有名なあの「ガンジーセーター」です。
とにもかくにも、「ジャージ(Jersry)」とはもともと、「フィッシャーマンズセーター」のことであり、その後、広くニット(編み物)を指す言葉になった。
ということは間違いないのです。
そしてこの「フィッシャーマンズセーター」が、現在の「スエットシャツ」や、「ラグビージャージ」へと繋がっていくわけです。
その証拠に、この「ジャージーセーター」や「ガンジーセーター」に見られる、「全体を編み上げた後に、脇部分の襠(マチ)を加える」などの伝統的手法は、現在の「ラグビージャージ」や、「スエットシャツ」の製法に色濃く継承されています。
と、ここまで〝スエットシャツの母〟である「ジャージ(Jersry)」について書いてきました。
ここまでを、『スエットシャツが来た道【1】』とします。
次回は、〝スエットシャツの父〟である、「フットボールの発展」について書きますので、どうぞお楽しみに。
【参考文献】
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