〝流行〟の正体【1】
〜流行は〝現象、服装は〝文化〟〜
突然ですが皆さん、
「流行って何ですか?」と聞かれて、
自分の言葉で簡単に説明することが出来ますか?
「流行とは何か。」という問いに自分からアプローチを試み、
自分なりの解答を用意している人は、
洋服業界を見渡しても、かなり少ないと思います。
しかし、この問いに答えられない洋服関係者は、確実に勉強不足。
はっきり言って素人です。
【1】〝流行〟とは何か?
僕はこの問いに対して、自分なりにこう解答を出しました。
「流行(ファッション)」は〝現象〟であり、
「服装(スタイル)」は〝文化〟である。
そして、これを川に例えて、
「流行(ファッション)」は、〝川の水の流れ〟であり、
「服装(スタイル)」は、〝川筋〟である。
どういうことかと言うと、
まず、この業界でよく使われる用語の、
ファッションを「流行」、スタイルを「服装」として、
明確に区別することが重要だと考えています。
そしてその上で、両者を「現象」と「文化」という言葉でくくりました。
「現象」とは、
〝その瞬間、実際に現れているモノやコト〟であり、
その裏側にある
歴史(History)や哲学(Philosophy)・物語(Story)
が持ち出され、議論されることはまずありません。
一方で「文化」とは、
〝ある社会を構成する人々によって、一定の時間をかけ、
「習得」・「共有」・「伝承」された、行動様式ないし、生活様式〟
であり、
ここでは、その裏側にある、
歴史(History)や哲学(Philosophy)・物語(Story)
が常にその根幹をなしており、
それなしでは、ほとんど説明することが不可能なものです。
ですから僕は、世の中に氾濫する服装に関しての情報を、
「現代モード」は、〝現象〟
年2回開催される、パリ・ミラノ・ロンドン・ニューヨーク・東京の各コレクションから派生して大衆に降りてくる洋服。
「クラシック / トラディショナル・スタイル」は、〝文化〟
「ブリティッシュ・クラシック」や、「クラシコ・イタリア」・「アメリカントラディショナル」・「民族衣装」など。
として区別・整理し、全く別のカテゴリーとして捉えるようにしています。
本来であれば、洋服屋である以上は、最初に全員がこの認識を備えておくべきであり、
もっと言えば、この認識を持ち合わせてないのであれば、残念ながらその人は洋服屋として素人だと言わざるを得ません。
なぜなら、
洋服屋が、この認識を持たないで店頭に立ち、お客さんに正しい情報を伝えるのは、まず不可能だからです。
【2】洋服屋としての資質①
「そんなことは、お客さんから聞かれることはまずない。」
「そんなこと、知ってたって使う機会がない」
「そんなこと知らなくても、私は十分売れる」
と言う人も、中にはいるかもしれませんが、
そういう販売員に限って、
お客さんから根本的な(文化的な)質問をされることを、心のどこかで恐れています。
なぜなら、答えられないからです。
だから、そういう販売員は、
商品の「セールス・トーク集」なるものを何パターンも用意し、
それを何度も何度もロールプレイングすることで、
頭の中でマニュアル化しているはずです。
そして、100人のお客さんに対して100回同じ事を言います。
「今年〝流行〟の色」
「今年〝流行〟のシルエット」
「今年〝流行〟のディテール」
「今年〝流行〟の合わせ方」
など、その時の〝現象〟だけをお客さんに伝えることで、
「では、なぜこの色なのか?」
「なぜ、このシルエットが良いのか?」
「なぜこのディテールが採用されたのか?」
「この生地やディテールの歴史的背景は?」
「これにはこれが合う。と言う根拠は?」
などと言った根本的な(文化的な)質問が出ないよう、
常に〝現象〟について喋り続けていなければならないはずです。
しかし〝現象〟とは常に一過性のモノですから、
半年後には〝新たな現象〟が起こり、また新たなマニュアル作りを始めなければなりません。
その際、
半年前に自分が言っていたことと矛盾する事態が起こったとしても、
それが〝現象〟というモノの特徴なので、お構いなしでいられるわけです。
これを延々と繰り返しているのが、素人販売員の特徴と言えるでしょう。
その手の素人販売員というのは、その人自体の存在も、一過性の〝現象〟でしかないのです。
【3】洋服屋の資質②
プロの洋服屋には、セールス・トークなど必要ありません。
お客さんが100人いたら、100通りの接し方をします。
服飾史をしっかりと修得している人が多く、氾濫する服の情報を、頭の中で整理し、
〝ファッション(現象)〟と〝スタイル(文化)〟に分けて考えることが出来ます。
そして、お客さんのライフスタイルや要望・悩みを聞いた上で、
「服飾史方面からのアプローチ」と「流行方面からのアプローチ」
この両者を自由自在に使い分け、解決策を提案します。
場合によっては、
「売らない」という選択肢すら持ち合わせていることも特徴です。
つまり、お客さんに対して自分は
「服装アドバイザー」であるという立ち位置を、自然と取っているのです。
そういう人は、
いつ見ても服装と言動が一致しているし、
アドバイスも一貫していて矛盾がありません。
ですから、
お客さんとの関係は長期に渡ることが多くなり、
人によっては、
息子さんや娘さんを連れてくるようになり、
親子2代に渡って担当するケースもあります。
こうなると、もはやその販売員は、お客さんにとって替えがきかない
〝文化的な存在〟になっているのです。
現在、洋服に携わっている人は、自分がお客さんにとって、
●一過性の〝現象〟としての存在か。
●長期にわたる〝文化的〟な存在か。
をじっくり考えてみる事をオススメします。
【4】最後に
今回の「流行の正体【1】」では、
「流行とは何か?」「洋服屋の資質」ということについて、
僕なりの見解を淡々と述べたものであり、あくまで個人的な意見です。
次回の「流行の正体【2】」では、
20世紀の服飾研究家や、社会学者が、
著書の中で「流行」というものを実際にどう分析しているのか。
ということについて、見ていきたいと思っています。
興味があれば、ぜひ読んでみてください。
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