スポーツとセーター
〜クリケット・セーター と テニス・セーター〜
こんにちは。
このブログは、〝洋服屋の一生モノブログ〟というタイトルからも分かる通り、キーワードは、〝一生モノ〟です。
「〝一生モノ〟というフィルターを通してモノを見る」
ことで、世の中に氾濫したモノを一度篩(ふるい)にかけ、
本当に良いモノだけを抽出していこう。というのが大きなテーマです。
今回は「スポーツとセーター」と題して、特に「クリケット・セーター」と「テニス・セーター」について取り上げたいと思います。
【1】スポーツとセーター
と、その前に、
皆さん、「スポーツ用のセーター」と聞いて、何をイメージしますか?
多くの人が思い浮かべるのは、「スウェット」あたりではないでしょうか。
確かに、「スウェット」も「セーター」から派生したスポーツ用ウェアですので、間違いではありませんが、
ここで言う、「スポーツ用セーター」とは少し毛色が違います。
とはいえ、
現代の人がスポーツをする時、いくら寒いと言っても、
ケーブル編みのセーターを着てプレーする人はあまりいないので、
しっかりイメージできる人が少ないのも、無理はないでしょう。
服飾史上に存在した、数々の「スポーツ用セーター」は、
今では寒い時期の、防寒用の「街着」に用途を変えています。
しかし、そもそも「セーター(SWEATER)」の本来の意味は、
「汗をかかせる服」であり、
その語源は、「汗」「汗をかく」という意味の「SWEAT」に由来するものなのです。
ですから、
「スポーツにセーターが用いられる」事は、実はごく自然な流れなのです。
【2】「クリケットセーター」と「テニス・セーター」
「スポーツ用」として発展したセーターの代表格は、
「クリケット・セーター」・「テニス・セーター」でしょう。
皆さんも、一度は見たことがあると思います。
先に僕が愛用している、
「クリケット・セーター」・「テニスセーター」をご紹介します。
【Brooks Brothers のクリケット・セーターとテニス・セーター】
【Brooks Brothers のクリケット・セーター】
【Brooks Brothers のテニス・セーター】
んっ、何が違うかって?
結論を言うと、ほぼ一緒です。
ですから現在は、
「クリケット・セーター」=「テニス・セーター」=「チルデン・セーター」として論じられています。
ちなみに、
「チルデン・セーター」とは、「テニス・セーター」の愛称であり、
1920年代に全英オープンや全米オープンで活躍したアメリカの名テニス・プレイヤー、ウィリアム・チルデン選手が、このセーターを着てプレーしたことで、その人気が不動のものになったことに由来します。
【ウィリアム・チルデン選手】
横道に逸れたので、話を元に戻すと、
「クリケット・セーター」と「テニス・セーター」は、
ほぼ同じなのですが、
服飾辞典を引くと、
「クリケット・セーター」と「テニス・セーター」は別々に載っています。
『男の服飾辞典』(婦人画報社)堀洋一監修 によると、
「クリケット・セーター」
→ ライン入りとケーブル編みを特徴とした、白ないしオフホワイトのVネック・プルオーバーのこと。
テニス用よりも丈が長い。
1890年代に登場。
「テニス・セーター」
→ ライン入りとケーブル編みを特徴とした、白ないしオフホワイトのVネック・プルオーバーのこと。
「チルデン・セーター」と同義。
とあります。
どうやら、丈の長さが決定的な違いのようです。
それでは、それぞれの選手が実際着用している例を見ていきましょう。
【クリケット選手】(Webより画像を転載)
【テニス選手】(拡大して見ることができます)
確かにこう見ると、違いが一目瞭然ですね。
クリケット選手が着ている「クリケット・セーター」は、
●お尻が隠れるくらいのチュニック丈
●リブが緩めで寸胴型のシルエット
であるのが一目でわかります。
一方のテニス選手が着ている「テニス・セーター」は、
●ショート丈でタイト
●長めのリブド・ウェスト(ウェスト部分の大きなリブ)
で、腰回りをしっかり締め付けています。
2つのスポーツの歴史を見て見ると、
クリケットの方がテニス(現在行われているローン・テニスの誕生は1873年)よりも歴史がはるかに古く、
「クリケット・セーター」の誕生が1890年代であるのに対し、
「ショート丈・長いリブド・ウェスト」を備えた「テニス・セーター」の普及は前述の通り、
1920年代のチルデン選手の登場を待たなければならない事を踏まえると、
「クリケット・セーター」がテニス用に進化した姿が、「テニス・セーター」である。
と言えるのではないでしょうか。
「クリケット・セーター」と「テニス・セーター」は、言うなれば「従兄弟(いとこ)」のような関係性なのですね。
現在、洋服の細かいディテールの違いは特に検証されずに、似ていれば何でもひとつにまとめられてしまいますが、
細かく見ていけば、必ずどこかで枝分かれしているモノなんですよ。
これも、洋服の面白く奥深い世界なのです。
【参考文献】
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