北海の小島に息づく伝統
〜フェア・アイル・セーター物語〜
【前編】
こんにちは。
このブログは、〝洋服屋の一生モノブログ〟というタイトルからも分かる通り、キーワードは、〝一生モノ〟です。
「〝一生モノ〟というフィルターを通してモノを見る」
ことで、世の中に氾濫したモノを一度篩(ふるい)にかけ、本当に良いモノだけを抽出していこう。というのが大きなテーマです。
「フェア・アイル・セーター」という名称は、
皆さんもどこかで一度は耳にしたことがあると思います。
冬になると、街でも着ている人をよく見かけますよね。
「フェア・アイル・セーター」を服飾辞典で引いてみると、
→「フッシャーマンズ・セーター」の一種で、〝フェア・アイル・パターン〟と称する多彩な横縞(ストライプ)を特徴とした、プルオーバーないしは、カーディガンを指す。
とあります。
確かにその通りでなのですが、これではなんだか判然としませんよね。
それもそのはず、
一説では17世紀後半ごろにはすでに、その原型が確認されていたと言われているほど歴史の深い、「フェア・アイル・セーター」については、
とても2・3行では語れないのです。
ということで、
今回はこの「フェア・アイル・セーター」が持つ、
奥深い「伝統と歴史」を詳しくご紹介しようと思っています。
【前編】と【後編】に分かれますが、
興味がある方はぜひ、最後までお付き合いください。
【1】フェア・アイル・セーター
まず最初に、
僕が愛用している「フェア・アイル・セーター」を紹介しておきます。
【Brooks Brothers のフェア・アイル・セーター(クルー・ネック)】
【Brooks Brothers のフェア・アイル・セーター(モックネック)】
【Brooks Brothers のフェア・アイル・セーター(Vネック)】
【2】北海に浮かぶ小島、フェア・アイル(フェア島)
「フェア・アイル・セーター」について語るに当たって、
まず最初に「フェア・アイル(フェア島)」について触れておかなければなりません。
「フェア島」は、スコットランドの北東の北海に浮かぶ、
「シェトランド諸島」の中にある島のひとつで、
シェットランド諸島の中では、1番スコットランド寄りに位置します。
【フェア島位置(Google MAPより)】
※フェア島の右上が「シェトランド諸島」で、左下が「スコットランド」です。
そして、
この島で伝統的に編まれているセーターが、「フェア・アイル・セーター」なのです。
【3】フェア・アイルセーターの謎
「フェア・アイル(フェア島)」の〝フェア(Fair)〟とは、
ノース語で「羊」を意味すると言われており、
その羊の品種はおそらく、
〝シェトランド・シープ〟
であろうと思われます。
これは、
現地のフェア・アイル・セーターに例外なくシェトランド・ウールが使用されている事と、この品種が持つ長い歴史からみて、ほぼ間違いないでしょう。
シェトランド・シープとは、
極寒のシェトランド諸島に生息する小型の羊で、
極限とも言える厳しい環境下に見事適応し、生き延びた、
このたくましい品種から採れる羊毛は、
細く・長く・圧倒的な保温力を持ちます。
この「シェトランド・シープ」の歴史は古く、
なんと紀元前4000年まで遡らなければなりません。
その頃の移住者が持ち込んだ羊が彼らの祖先で、
その後9世紀ごろになり、ノルウェーからもたらされた羊と混合してできた品種が、
現在のシェトランド・シープだと言われています。
古くからシェトランド諸島の各島では、この「シェトランド・ウール」を使ったセーターが編まれていたのですが、
特徴として、その多くが単色の物です。
そんな中、他の島とは少し離れているとはいえ、
「フェア島」でのみ、
「多色使いの、複雑なジオメタリック・パターンの編み方」が誕生し、
その後、伝統的に継承されていったのです。
現に今も、
同じシェトランド諸島で、同じ羊毛を使って編まれているセーターであるにも関わらず、
▪主にクルー・ネック(丸首)で、淡い単色使いのものは、
「シェトランド・セーター」と呼ばれ、
▪多色使いの、複雑なジオメタリック・パターンのものは、
「フェア・アイル・セーター」と呼ばれます。
そしてこの2つは、完全に別の種のセーターとして扱われているのです。
ちなみに、
これが僕が所有している「シェトランド・セーター」です。
【Brooks Brothers のスコットランド製 シェトランド・セーター】
目立ったデザインなどは全くない、
至ってシンプルな丸首セーターですよね。
一方で、
先ほど紹介した「フェア・アイル・セーター」がこちらですから、
違いは一目瞭然ですよね。
【Brooks Brothers のフェア・アイル・セーター】
でもこの話、
「フェア・アイル(フェア島)は、シェトランド諸島の一部である」
という地理的な事実を知った上で改めて考えてみると、
とても不思議だと思いませんか?
どちらも同じ「シェトランド諸島」の島で編まれたセーターなのに、
どうしてこうも違ったものになったのでしょうか?
これこそ、フェア・アイル・セーターを語る上での
最大の「謎」なのです。
と、ここまでを【前編】とします。
この後のフェア・アイル・セーター物語【後編】では、
その「謎」の解明と、
小さな島でひっそりと編まれていた「フェア・アイル・セーター」が、
どのようにして世界中に広まって行ったのか。 など、
現在に繋がる〝核心部分〟に迫っていきたいと思っていますので、
皆さんぜひ、最後までお付き合いくださいね。
【参考文献】
コメント