伝統と歴史を受け継ぐ柄
〜アーガイル・プレイド〜
こんにちは。
このブログは、〝洋服屋の一生モノブログ〟というタイトルからも分かる通り、キーワードは、〝一生モノ〟です。
「〝一生モノ〟というフィルターを通してモノを見る」
ことで、世の中に氾濫したモノを一度篩(ふるい)にかけ、本当に良いモノだけを抽出していこう。というのが大きなテーマです。
今回は「アーガイル・プレイド」について、詳しく紹介します。
【1】アーガイル・プレイド(Argyle Plaid)とは?
「アーガイル・プレイド」とは、一般的に「アーガイル・チェック」と呼ばれ、世界中で親しまれている柄の正式名称です。
【アーガイル・プレイド】
ちなみに、「チェック」と「プレイド」、どちらも格子柄を指す言葉なのですが、
正確には、
- 小さい格子柄を、「チェック(Check)」
- 大きい格子柄を、「プレイド(Plaid)」
と呼びます。
アーガイル・パターンは、菱形の〝大きな格子柄〟なので、「アーガイル・プレイド」が正式名称となります。
この柄については、世界中の多くの人に認知されている有名なものですよね。
皆さんも、セーターや靴下などに使われているのを頻繁に目にしていると思います。
しかし、
- この柄がいつ頃から存在していたのか?
- どのような所に起源を持つのか?
といったところまで知っている人は、そうそういません。
今回は、この「アーガイル・プレイド」が持つ、「長い歴史と伝統」を辿っていきたいと思っていますので、
興味のある方はぜひ、最後までお付き合いください。
【2】アーガイル・プレイドの由来
アーガイル・プレイドの「アーガイル(Argyle)」は、「Argyll」と綴られることもあります。
▪「Argyle」の場合は、スコットランドの地名「アーガイル・シャー(Argyll − shire)」が語尾変化したもの。
(※アーガイル・シャーは、スコットランド西部の旧州名で、現在のハイランド州南部あたりの地域を指します。)
と言われ、
▪「Argyll」の場合は、スコットランドの大氏族、「キャンベル一族」の分家で初代アーガイル伯爵であった、コリン・キャンベルの名に由来する。
と言われています。
いずれにせよ、
「アーガイル」と呼ばれる格子柄が本来、キャンベル一族が使用していた「タータン・プレイド(タータン・チェック)」の一種であったという事は、間違いないようです。
【2】タータン・プレイドについて
「タータン・プレイド(チェック)」については、後日詳しく記事にしたいと考えていますが、
簡単に言うと、
「多色の糸で、綾織にした格子柄の毛織物」の事で、
16世紀から17世紀にかけて、スコットランドのハイランド地方で発達し、定着したものを言います。
この地方の民俗文化・民族衣装に大きく関係していて、それはスコットランド兵が着用する「キルト・スカート」でお馴染みですね。
【キルト・スカートを装着した、スコットランド兵】
現在では、
「イギリスにおける、王族・貴族階級の、日本で言うところの〝家紋〟のようなモノ」といった捉え方をされてますが、
それは、タータン・プレイドが元々、スコットランド高地地方の大氏族集団(クラン)に由来するからです。
その大氏族集団(クラン)の総帥家系であったのが、「キャンベル家」なのです。
【3】スコットランドの大氏族「キャンベル家」
上述した通り、「キャンベル家」は、スコットランド中西部の大氏族集団(クラン)の総帥家系です。
そのキャンベル家に、初めてスコットランド貴族爵位が与えらえれたのは1445年のことで、当主のダンカン・キャンベルが、「キャンベル卿」を叙爵されています。
【初代キャンベル卿・ダンカン・キャンベルの肖像画】
それを継承したのが、ダンカンの孫・2代目「キャンベル卿」のコリン・キャンベルでした。
彼が西部の「ローン卿」スチュワート家のイザベラと結婚した事で、キャンベル家はコリンの代で、西部最大の大氏族となりました。
そして1457年にコリン・キャンベルは、スコットランド貴族「アーガイル伯爵」に叙されます。
彼が、初代アーガイル伯爵です。
おそらくこの辺りで誕生したであろう、
キャンベル家にまつわる「タータン・プレイド」の内のひとつが、現在の「アーガイル・プレイド」なのです。
これだけでもアーガイル・プレイドが、少なくとも500年以上の歴史を持つことがわかります。
しかし、
アーガイル・プレイドの原型となった柄自体は、もっと古くから存在していたのではないか。
と言われているのです。
【4】14世紀以来の伝統を受け継ぐ柄
アーガイル・プレイドの原型となった「ダイヤ柄」「菱形模様」あるいは「斜め格子柄」などの独特の格子柄は、
一説によると、スコットランド高地地方で14世紀の中頃には、すでに使われていたと言われています。
当時は、「タータン・プレイドを崩したもの」という意味の「ブレカン」なる語が当てられていたそうです。
アーガイル公 キャンベル家の紋章の中にも、黄色と黒の「ダイヤ柄」が使われています。
【アーガイル公 キャンベル家の紋章】
興味深いのは、当時この「ブレカン」は、靴下専用の柄だったという事です。
現在では、アーガイル・プレイドは主に、セーターやカーディガン・靴下に使われていますよね。
これ面白いことに、
洋服業界でも多くの人が、その採用された順番を、
▪そもそもはセーターに採用されていた柄で → その後、靴下の柄としても転用されていった。
と、なぜか無条件に信じ込んでいるんです。
しかし、事実は逆で、
▪そもそもは靴下に採用されていた柄で → その後、セーターの柄としても転用されていった。
なのです。
その歴史考証のひとつとなるのが、上述のアーガイル・プレイドの原型である「ブレカン」が靴下専用の柄だったという話です。
ちなみに、
アーガイル・プレイドがセーターに採用されたのは1926年であり、それがやっと一般化するのは、実は1937年以降の事なんです。
それよりも遥か昔、
500年近くも前からずっと、「靴下の柄」として存在し続けてきたのです。
それはともかくとして、
この「ブレカン」の時代も含めると、アーガイル・プレイドにまつわる歴史は、約700年にも及ぶことになります。
アーガイル・プレイドが、世間一般に「伝統柄」とか、「トラッド・アイビーを象徴する柄」と呼ばれる所以は、
この柄が持つ「長い歴史と伝統」に裏打ちされていたのです。
【5】愛用のアーガイル・プレイドのセーター
最後に、僕が愛用しているアーガイル・プレイドのセーターを紹介して終わりにします。
【Brooks brothers アーガイル・プレイドのベスト】
【Brooks brothers アーガイル・プレイドのカシミヤ・セーター】
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