由緒正しき帽子
〜ハンティング・キャップ〜
こんにちは。
このブログは、
〝洋服屋の一生モノブログ〟というタイトルからも分かる通り、
キーワードは、〝一生モノ〟です。
「〝一生モノ〟というフィルターを通してモノを見る」
ことで、世の中に氾濫したモノを一度篩(ふるい)にかけ、
本当に良いモノだけを抽出していこう。というのが大きなテーマです。
さて、突然ですが、
皆さんは「ハンティング・キャップ」と聞いて、どんなイメージを持ちますか?
多くの人は、「探偵」「ゴルフ」「映画の中の刑事」などを想像するのではないでしょうか?
いずれにしても、現代においては少し〝古くさい〟イメージを持たれている事だけは確かなようです。
それもそのはず、
「ハンティング・キャップ」の誕生は、今から150年以上前の19世紀中頃と言われていますので、その歴史は結構長いんです。
今回は「ハンティング・キャップ」が持つ、「由緒正しき歴史」をご紹介します。
どうぞ最後までお付き合いください。
【1】僕が愛用する「ハンティング・キャップ」
僕は昔から、秋から冬にかけての寒い時期には必ず、
「ハンティング・キャップ」を被りますので、沢山持っています。
長年被っているので、冬は体の一部のように感じますね。
それらを先に紹介しておきます。
【Brooks brothersのツイード・ハンティング・キャップ】
【Brooks brothersのカシミヤ・ハンティング・キャップ】
【NEWYORK HATのツイード・キャスケット】
【NEWYORK HATのツイード・キャスケット】
【2】「キャップ(CAP)」と「ハット(HAT)」
ハンティング・キャップの歴史に入る前に、「キャップ」と「ハット」の違いについて、それぞれのアイデンティティを明確にしておきましょう。
『男の服飾辞典』婦人画報社によると、
「ハット」と「キャップ」はそれぞれ対語で、
▪「ハット」とは、山(クラウン)とつば(ブリム)からなるヘッドウェアの総称で、
▪「キャップ」とは、頭部にぴったりとフィットした、目びさし付きの、または目びさしのない、小さなかぶり物の総称。
となっています。
歴史的に見たそれぞれのアイデンティティも、
「ハット」は、トップ・ハットや、ホンブルグハットに代表されるように、王族・貴族を含めた上流階級のヘッド・ウェアだったのに対して、
【19世紀にみられるヨーロッパ上流階級スタイルの一例】
「キャップ」は16世紀までは、専ら従僕や職人などが身につけており、社会的身分の低さの象徴とされていました。
その後も18世紀ごろまでは、紳士が手にするかぶり物とは到底認識されていませんでした。
【労働者階級に見られたスタイルの一例】
【3】「ハンティング・キャップ」の登場
服飾史上、ずっとそんな扱いだった「キャップ」を、一気に格上げしたのが、「ハンティング・キャップ」でした。
19世紀中頃のことです。
19世紀というのは、服飾史において歴史が大きく動いた、とても重要な時代です。
全てお話する事は到底不可能ですが、いくつか挙げておくと、
①
18世紀末に起こったフランス革命により、宮廷ファッションの時代が終わり、それに代わってイギリス風の乗馬スタイルが一気に主流となった。
②
イギリス産業革命後、鉄道網が整備され、上流階級の間で旅行が楽しまれるようになった。
それに伴い、カントリー・スタイル(田舎着)が急速に発達した。
③
同じく上流階級の間で、乗馬や狩猟などのスポーツが盛んに楽しまれるようになり、それに伴う服装(スポーツ・スタイル)が急速に進化した。
などがあります。
そして、
この中の③「スポーツの発展」によって、現代に繋がる様々なウェアが次々と登場するのですが、
その中のひとつが「ハンティング・キャップ」です。
特に、上流階級の人々が熱中したのが「ハンティング(狩猟)」で、
彼らは狩猟を行う際、分厚いツイード素材などで仕立てられたジャケットを着て、ニッカー・ポッカーズを穿きました。
そして頭には、ジャケットと同じツイード素材で仕立てられた、キャップを被ったのです。
【4】由緒正しき帽子
そして20世紀に入り、その人気を不動のものにした人物が、
エドワード7世とその孫にあたる、ウィンザー公です。
【ハンティング・スタイルのエドワード7世】
【カントリー・スタイルのウィンザー公】
80年以上前の人とは思えない格好良さに驚かされるとともに、ウィンザー公のスタイルを見ていると、紳士のスーツスタイルがこの時期に完成され、現代までほぼ変わっていない事がはっきりとわかりますよね。
ちなみに、上のエドワード7世が被っている「ハンティング・キャップ」が、日本では、〝ハンチング〟と呼ばれている帽子で、
下のウィンザー公が被っている「ハンティング・キャップ」が、日本では、〝キャスケット〟と呼ばれている帽子に近いです。
日本では、別のカテゴリーの帽子として扱われていますが、実はどちらも「ハンティング・キャップ」の一種です。
そのアイデンティティの違いは、
▪〝ハンチング〟はイギリス式。
「1枚天井」が特徴のハンティング・キャップ
※「1枚天井」…「山」の部分が1枚の生地で出来ている事。
▪〝キャスケット〟はフランス式。
6枚はぎないし、8枚はぎの「パンケーキ型」で、ふわっと膨らむボリュームある形が特徴のハンティング・キャップ
というものです。
現在においても、アメリカでは新聞配達の子供が被っていた事から、「ニュースペーパー・ボーイ・キャップ」と呼ばれたり、
【アメリカのニュースペーパー・ボーイ】
日本でも職人や美術関係の人が被っているイメージが、どうしても先行しがちですが、
それらの〝イメージ〟に反して、
「ハンティング・キャップ」の発祥は、実に〝高貴で〟〝由緒正しい〟ものなのです。
ハンチングやキャスケットに、「ハリスツイード」や「カシミヤ」などの高級素材が惜しみなく使われることも、実はこの〝高貴な出自〟と関係しているのかもしれない…
というのは、僕の考え過ぎでしょうか…
皆さんは、どう思いますか?
【参考文献】
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