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最果ての島のツイード文化 〜ハリスツイード物語【後編】〜

 

最果ての島のツイード文化

〜ハリスツイード物語〜

【後編】

 

こんにちは。

このブログは、

〝洋服屋の一生モノブログ〟というタイトルからも分かる通り、

キーワードは、〝一生モノ〟です。

 

「〝一生モノ〟というフィルターを通してモノを見る」

 

ことで、世の中に氾濫したモノを一度篩(ふるい)にかけ、

本当に良いモノだけを抽出していこう。

というのが大きなテーマです。

 

今回は、引き続き『ハリスツイード物語【後編】』をお送りします。

 

【後編】は、  

  1. Harris Tweed 技術革新と生地の変遷
  2. 技術革新の影でひっそりと姿を消すもの…

という構成で進めていきます。

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【1】技術革新と生地の変遷

古着好きの人や、長くハリスツイードを愛用している人の中には、

「ハリスツイードが昔に比べ、薄く・軽くなっている」と感じている人、結構いるんじゃないでしょうか。

 

結論から言うと、実際そうなんです。

ハリスツイードは、以前に比べ薄く・軽くなっています。

 

それは、「品質が落ちた」とか「糸を節約している」とかそう言う陰気な理由ではなく、「技術革新」によって、そうなっていったのです。

 

以下に詳しく説明します。

 

ハリスツイードには、

  1. 幅75センチのいわゆるシングル幅の生地と、
  2. 幅150センチのいわゆるダブル幅の生地

の2種類が存在します。

 

そして、

シングル幅の生地を織るのが、島でおよそ100年の歴史を誇る織機

 

「ハッタースレイ」です。

 

この織機が、昔ながらの手織りの風合いをもつ素朴でどしっとしたハリスツイードを織り上げます。

 

一方、

ダブル幅の生地を織るのが、1996年に21世紀に向けて新しく登場した織機

 

「ボナス・グリフィス」です。

 

この織機で織られるハリスツイード は、より均一な織り目を作ることができ、この織機の登場で効率と織る速度が飛躍的に向上しました。

 

このように、

機織り(はたおり)機のイノベーションの歴史が、シングル幅とダブル幅という、「2種類のハリスツイード 」を生み出していったというわけです。

 

ハッタースレイで織られるシングル幅のハリスツイード は、一定面積あたりの生地の重量を表す「目付」の平均が、540gであるのに対し、

 

ボナス・グリフィスで織られるダブル幅のハリスツイードは、目付の平均が「フェザー・ウェイト」と言われる470g程度で、

中には「スーパー・ファイン」という目付390g〜420gのツイードも織られていて、これが世界中で支持されています。

 

※一定面積あたりの生地の重量である「目付」が大きいほど、どっしりとした重厚感のある製品が仕上がります。

 

これは、現在の世界のファッショントレンドである、

 

「より軽く、より薄く」

 

という需要に対応する為の企業努力の結晶でもあります。

 

そして、現在生産されているハリスツイードの実に9割は、新式織機「ボナス・グリフィス」によるダブル幅の、

〝薄く・軽い〟ハリスツイードなのです。

 

これが、ハリスツイードが以前より薄く・軽くなっている理由です。

【2】技術革新の影でひっそりと姿を消すもの…

とは言え、昔ながらの機械を用いて人が手で織り上げる、

素朴でどっしりとした風合いのハリスツイードを支持する声が、各方面から挙がっているのも事実です。

 

例えば、オーダーメイドのスーツを手がける高級紳士街、ロンドンにあるサヴィル・ロウのテーラー達は、シングル幅のハリスツイード の熱烈な支持者で、

ハッタースレイ織機で織られた、シングル幅のハリスツイードが入手困難になると聞くや否や、

彼らはついにハリス島まで失われたツイードを求めて買い付けに行ったと言います。

 

このサヴィル・ロウの一流テーラー達の執念の行動からも読み取れるように、シングル幅とダブル幅の違いは、ただ単にその生地のサイズだけでは無いのです。

 

機械が違うことによって、ツイード生地の〝風合い〟が変わってまうのはもちろんのこと、

なんと驚くべきことに、使用する羊の品種まで変わってしまうのです。

 

従来ハリスツイード に用いられるウールは、この地に古来から生息していた羊の種類である、「ブラック・フェイス種」でした。

 

厳しい寒さや風雨にも耐えるブラック・フェイス種の羊は、アウター・ヘブリディーズ諸島の厳冬の気候に見事に適合した品種です。

 

このブラック・フェイス種から取れるウールは、繊維長200〜300ミリと毛足が長く、太くて丈夫なごわごわとした手触りを持ちます。

 

かつてのハリスツイードに見られた「丈夫で長持ちする毛織物」というイメージは、このブラック・フェイス種のウールが持つ特徴そのままなのです。

 

では、現在ではどうかというと、

羊の種類は従来の「ブラック・フェイス種」から、元はイングランドの純血種で、現在はヨーロッパ各地、オーストラリアなどで飼育されている「チェビオ種」にとって代わられています。

 

チェビオ種の羊から取れるウールは、繊維長が70〜125ミリと短く光沢があり、縮れている為弾力性に富んでいます。

ブラック・フェイス種ほど、過酷な環境下で逞しく生き抜いてきた種類ではない為、チェビオ種のウールから織られるダブル幅のハリスツイード は、幾分柔らかく軽くなるという違いが出てきます。

 

そして、

従来のシングル幅のハッタースレイ織機は、分厚く固いブラック・フェイス種のウールに適合するよう開発された織機なのに対し、

新しいダブル幅のボナス・グリフィス織機は、より毛足が短く、弾力のあるチェビオ種のウールに適合するように開発された織機なのです。

 

つまり、

シングル幅とダブル幅という〝2つのハリスツイード 〟には、機械の違いによる風合いだけではなく、羊毛の種類による風合いの違いも現れてくるのです。

 

この違いは、20世紀初頭からほぼ1世紀にわたり、ハリスツイードで貴族のカントリー・ウェアを仕立ててきたサヴィル・ロウのテーラー達からしたら、まったくの別物だったのでしょう。

 

20世紀初頭のハリスツイード黄金期を築いた、ハッタースレイ織機によるシングル幅のハリスツイードは、今や世の中から消え去ろうとしています。

 

現在、ダブル幅の織り手は約130人であるのに対して、昔ながらのシングル幅を織る織り手は30人ほどしか残っていないのが現状だそうです。

 

技術革新の影で、古き佳き時代の原風景が消えていく…

 

仕方のない事だと分かってはいますが、なんとかバランスを取る形で残せないものでしょうか…

 

ハリスツイード物語 【前編】』の最後にも書いた通り、

ハリスツイード は、ケルト文化に彩られた「文化遺産」だと僕は思っています。

 

その美しい原風景を少しでも残す形で、後世に伝えてほしいと切に願います。

【参考文献】

 

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