スポーツ・ジャケットの原風景
〜ノーフォーク・ジャケット〜
こんにちは。
このブログは、
〝洋服屋の一生モノブログ〟というタイトルからも分かる通り、
キーワードは、〝一生モノ〟です。
「〝一生モノ〟というフィルターを通してモノを見る」
ことで、世の中に氾濫したモノを一度篩(ふるい)にかけ、
本当に良いモノだけを抽出していこう。
というのが大きなテーマです。
突然ですが皆さん、
「スポーツ・ジャケット」という言葉をご存知ですか?
「スポーツ・ジャケット」とは、厳密に言うと、
ツイード生地で仕立てられた「スポーツ用の替え上衣」
の事を言います。
簡単に言うと、「ツイード素材のジャケット」のことです。
【僕が愛用している Brooks Brothersのハリスツイード製 スポーツ・ジャケット】
【柄はへリン・ボーン(杉綾)】
では、なぜ「ツイード素材のジャケット」のことを「スポーツ・ジャケット」と呼ぶのか。
その答えは、〝スポーツと紳士の国〟英国にありました…
ということで、
今回は「スポーツ・ジャケット」について、詳しく解説していきたいと思います。
どうぞ最後までお付き合いください。
【1】スポーツジャケットの原風景
「スポーツ・ジャケット」とは、基本的にツイード生地で仕立てられることが大前提で、
素材は主に、「ハリスツイード」や「チェビオット・ツイード」、「ドニゴール・ツイード」、「シェトランド・ツイード」などが世界的にも有名です。
柄は「オート・ミール」や「ヘリン・ボーン(杉綾)」を始め、「グレナカート・プレード(グレン・チェック)」や「ガンクラブ・チェック」など多数あります。
さらに「スポーツ・ジャケット」の種類を細かく挙げると、
「ノーフォーク・ジャケット」・「ハッキング・ジャケット」・「シューティング・ジャケット」・「ハンティングジャケット」などが名を連ねるのですが、
これらは皆、ヴィクトリア朝後期(19世紀末)の英国で、貴族をはじめ上流階級の人々の間で盛んに行われていた「スポーツ」の時に着用されていたジャケットでした。
当時のイギリスでは、「スポーツ」とはそのまま「狩猟」や「乗馬」を指す言葉で、
上流階級で行われる「狩猟スポーツ」は、当時としては典型的な貴族ファッションで、馬に乗って広大な大地を駆け巡る、贅沢極まりない優雅なものでした。
その為、ヨーロッパ中の人々にとっては羨望の的で、常にそのスタイルには注目が集まっていました。
このような「狩猟スポーツの発展」という歴史的背景の中から、それまでのフロックコートやモーニング・コートといった膝まである丈長のものではなく、狩猟服や乗馬服としての〝丈の短い上衣〟の必要性が急速に高まっていったのです。
そこで貴族達に注目された素材が、「ツイード」でした。
当時イングランドとスコットランドの国境付近に流れる「ツイード川」流域で、農夫たちが作業着として着ていた「ツイード・サイド」という、ツイード製の丈の短いジャケットが参考にされました。
こうして、ツイード素材の「狩猟服」が誕生し、これが、現在の「スポーツ・ジャケット(ツイードジャケット)」の源流です。
そして、19世紀末にこの「狩猟スタイル」で全世界から注目を浴びた2人の「スタイル・セッター」がいました。
後の英国王、エドワード7世(当時はプリンス・オブ・ウェールズ)と、
当時15代ノーフォーク公爵だった、ヘンリー・フィッツアラン・ハワードです。
【2】エドワード7世が愛した狩猟スタイル
1人目のエドワード7世は、上下共にツイード素材で仕立てられた、ゆったりとした狩猟服を好みました。
【エドワード7世の狩猟スタイル】
19世紀半ばまでは、上下揃いの生地を使った現在のスーツのようなスタイルはごくごく少数で、全くといって良いほど主流ではなかった為、このエドワード7世の着こなしは、当時の人々の目にはとても斬新に映りました。
ほどなくこれが大きな話題を呼び、ヨーロッパ中で真似され、さらに20世紀に入るとアメリカにも伝播していきます。
そして、このエドワード7世による〝上下共地の狩猟スタイル〟が基礎となり、現在の「ビジネススーツ」・「背広」へと繋がっていくのです。
【3】ノーフォーク公爵が愛したジャケット
そして、もう1人の「スタイル・セッター」である、15代ノーフォーク公爵が颯爽と着こなしたのが、
「ノーフォーク・ジャケット」でした。
「ノーフォーク・ジャケット」とは、東イングランドにあるノーフォーク地方の男たちが着ていた作業着で、それを時のノーフォーク公爵であった、ヘンリー・フィッツアラン・ハワードが自身の狩猟服として採用したと伝わっています。
【15代ノーフォーク公爵 ヘンリー・フィッツアラン・ハワード】
兎にも角にも、この「ノーフォーク・ジャケット」は独特の形をしています。
実物を見たほうが早いので、ここで僕が愛用している「ノーフォーク・ジャケット」を紹介しておきます。
【Brooks Brothersのノーフォーク・ジャケット】
その風変わりな特徴として、
1.前後の見頃に上下方向につく箱襞状の細帯
これはおそらく、カバンや猟銃を肩掛けする際の補強布だと思われます。
そして、
2.腰部の共地ベルト
これにより、ウエスト部分の安定感が増します。
3.両脇の襠(まち)つきフラップポケット
襠がついているので、かなりの収納力を誇ります。
この「ノーフォーク・ジャケット」にニッカー・ボッカーズを合わせた狩猟スタイルも、各地で話題を呼び、
19世紀後半には、狩猟のみならず「乗馬」「ゴルフ」「自転車」などの時に着用するスポーツ・ウェアとして、瞬く間に定着していきました。
さらに、20世紀に入った1930年代のアメリカでは、
「ノーフォーク・ジャケットは、最もファッショナブルなスポーツ・ジャケットである」として、何度も繰り返しクローズアップされています。
【ゴルフ・自転車でも着用された例】
【4】スポーツ・コートの原風景を感じる
現在、「スポーツコート」の原風景を感じられるイベントとして挙げられるのが「ツイード・ラン」です。
日本でも毎年10月頃に、東京や名古屋、神戸などの都市で開催されていますよね。
【ツイード・ランの風景】
みなさんも秋の紅葉シーズンには、颯爽とツイードジャケットを身に纏い、サイクリングや旅行に出かけてみてはいかがでしょう。
きっと、スポーツ・ジャケットの原風景を感じることができますよ。
【参考文献】
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