男の胸元に必要なもの
〜ネクタイの役割〜
こんにちは。
このブログは、〝洋服屋の一生モノブログ〟というタイトルからも分かる通り、キーワードは、〝一生モノ〟です。
「〝一生モノ〟というフィルターを通してモノを見る」
ことで、世の中に氾濫したモノを一度篩(ふるい)にかけ、本当に良いモノだけを抽出していこう。というのが大きなテーマです。
2010年、本格的に「クールビズ」が導入され7年が経ち、夏期の日本人ビジネスマンの「半袖シャツ1枚にノーネクタイ」という姿もすっかり定着してきました。
とはいえ、
残りの半年間はスーツスタイルでネクタイ着用が義務付けられていますし、ノーネクタイが認められている期間であっても、重要な商談や顧客にコンタクトを取る際などは、ネクタイを着用しているのが現状でしょう。
実際クールビズを推奨した張本人である日本政府だって、
テレビでちらっと見せるノーネクタイ姿は、「節電に対するコマーシャル・メッセージ」にすぎず、
夏場の国際会議や公式行事に、ノーネクタイで出かける首相や大臣は1人としていませんよね。
そう考えると、
やはり現代社会に生きる以上、男性はネクタイからは逃れられないということが言えます。
そういった中で、
ただ社内の秩序を守るために、仕方なく近くにあるネクタイを手に取るか。
仕事相手の信頼を得、自分の力を最大限に引き出す道具として戦略的にネクタイを選ぶか。
この選択を誤ると、結果が大きく変わってしまうことすらあります。
これは、現代社会に生きる多くの男性にとって、決して避けることのできない現実なのです。
では、
その「ネクタイ」なるものは、どのような起源を持つのでしょうか。
次は、そのあたりを詳しく説明していきましょう。
【1】ネクタイの起源 〜クロアット連隊とルイ14世〜
「ネクタイ」という呼称は、どちらかと言うと和製英語に近く、アメリカでは一般的に「ネック・ウェア」「ネック・クロース」「タイ」などと呼ばれます。
正式名称は、フランスでの呼称「クラヴァート(cravate)」で、これを英国では「クラヴァット」と発音しています。
英国でフランス語の名称がついている理由は、その起源が17世紀中頃のパリにあるとされているからなのです。
現在のネクタイの歴史は、1656年ごろバルカン半島・クロアチア地方の「クロアット連隊」が〝太陽王〟ルイ14世に仕えるため、パリにやって来た時に、彼らが首に布を垂らしていたことから始まります。
ルイ14世は、このネック・ウェアがいたくお気に召したらしく、そのネック・ウェアはクロアット連隊の名前がそのまま採られ、フランス語読みで「クロアート(croate)」と名付けられます。
それが少し訛って、「クラヴァート」となったそうです。
ルイ14世は、すぐさま自身直轄の突撃部隊のユニフォームに「クラヴァート」を採用し、ブルボン家の旗の色に因んで白いクラヴァートの着用を義務付けると共に、王自身の胸元にも同じものをあしらいました。
そして、
その突撃部隊は、「ロイヤル・クラヴァート・レジメント」と命名されます。
その後のフランス革命でルイ王朝が崩壊したのち、クラヴァートは英国へと伝わり、「クラヴァット」と呼ばれるようになり、王族・貴族階級をはじめとする紳士たちによって愛用され広められていきます。
そして、
19世紀〜20世紀にかけての英国で、ただ布を垂らすだけのものから「アスコット型」や「ボウ・タイ型(現在の蝶ネクタイの原型)」さらには、今日のように大剣と小剣からなる「フォア・イン・ハンド型」と呼ばれる形へと大きく発展を遂げていくのです。
このように、
ネクタイ(クラヴァート)は、その歴史の始まりにおいてはクロアチアからパリに伝えられたものですが、その発展は20世紀の英国において目覚ましいものがあります。
おそらく、英国人の創意工夫がなければネクタイ(クラヴァット)は現在まで受け継がれていなかったのではないか、とさえ思ってしまいます。
そのほど、今日においても英国上流階級の人々の中において、「クラヴァット紳士道」に対する考え方には並々ならぬものがあるのです。
【2】英国人とクラヴァット(ネクタイ)
はるか昔から、英国紳士にとってネクタイ(クラヴァット)は身分を表す「男の紋章」であると言われてきました。
「身分を表す紋章」といっても現在ではそんな大袈裟なものではないのですが、かといってことさら軽視することもできない重要なアイテムなのです。
上流階級の英国人というのは、
少年時代は名門パブリックスクールの「スクール・タイ」を結び、大学に入るとケンブリッジ大やオックスフォード大など名門校の「カレッジ・タイ」や所属するスポーツクラブの「クラブ・タイ」を結び、社会人になると、所属するジェントルマン・クラブの「クラブ・タイ」を締めて出かけたりと、締めているネクタイ(クラヴァット)の柄によってその人の身分が判別される世界に生きています。
さらには、
軍隊でも、各連隊に伝わるシンボルカラーを組み合わせたストライプ柄のネクタイを締めます。その柄によって、どこの連隊に所属しているかが明確になるというわけです。
これこそが、僕たちがよく知る
「レジメンタルタイ」です。
この他にも、スポーツが盛んな英国では、ゴルフ・テニス・クリケット・ラグビー・ホース・ライディングなど、ありとあらゆる紳士のクラブが独自のクラブ・ストライプを取得しています。
余談ですが、
国家間で行われる国際会議などで、各国首脳が皆一様にストライプ・タイを締めるのを自粛し、無地や小紋柄のタイを締めて参加する理由は実はここにあるのです。
下手にストライプ・タイを選択すると、知らずにどこかの国の連隊やクラブ・タイ、スクール・タイの配色を選んでしまっている可能性があり、自身がそこの出身者でない場合、それは非常に失礼な行為として捉えられるからです。
【伊勢・志摩サミットの際の各国首相のネクタイ】
国を背負うような人物はもちろん、信頼の厚い人物や成果を挙げる人物は、自分が見られているということを常に自覚し、相手に失礼のないように、自分の身なりに細心の注意を払っているのです。
【3】ベーシックなネクタイの柄
では最後に、
ビジネスマンが揃えておいて損がない、伝統的なネクタイの柄を僕が愛用しているネクタイの中から紹介して終わります。
①レジメンタルタイ / ストライプタイ
②クレストタイ
③ロイヤルクレストタイ
④ペイズリータイ
⑤クラシックモチーフ(小紋柄)のタイ
「ネクタイを正しくつけていることが、ビジネスや人生の成功を約束するとは言えないが、少なくともあなたがきちんとした人間であることの証明にはなるはずです。」
(ジョン・T・モロイ著 『Dress For Success』より)
【参考文献】
『西欧服飾大全』林 勝太郎 著
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