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アメリカントラディショナルとは何か?【序章】日本式ガラパゴス・アイビーの弊害

 

アメリカントラディショナルとは何か?

【序章】日本式ガラパゴス・アイビーの弊害

 

 

こんにちは。

いつも「洋服屋の一生モノブログ」をご覧いただきありがとうございます。

僕は服飾業界に身を置く33歳です。

この業界でのキャリアは、今年で節目の10年に到達しました。

※詳しくは、運営者プロフィールをご覧ください。

 

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(少し長い)序章

日本式「ガラパゴス・アイビー」の弊害

 

「アメリカントラディショナル」

 

これ自体は男性・女性に関わらず、皆さん結構耳にするワードだと思います。略して「アメトラ」なんて呼ばれたりもしますよね。

 

でも、

「アメリカントラディショナルって何?」と聞かれると「そう言えば上手く言葉で説明できない…」という人、結構多いんじゃないですか?

 

服に詳しい人や服飾業界の人ならば、アメリカの伝統的なスタイル=IVYルックと限定的に紐づ付けて説明する人が多いでしょう。

 

ブレザーにチノパン、オックスフォードのボタンダウンシャツにペニーローファー、IVYリーグのロゴ入りスエットやレタード・カーディガンなどがその代表例ですね。

 

ブレザーやスーツの上着は「段返り3ボタン」で、背中は「センター・フックベント」、本来ならチノパンには「シンチバック(尾鋲)」がついて……など細かい仕様にまで熱心に言及する人もいます。

 

でもこれは、1960年頃に日本でVANが打ち出したIVYルックを鵜呑みにし、独自の発展を遂げた、日本式「ガラパゴス・アイビー」の話だったりします。(と言うか、実際そうなんです。笑)

 

いわゆる、

「IVYルックは、アメリカエリート学生のスタイルや生き方の象徴で、そのワードローブは未来永劫不変だ」というものです。

 

はっきり言っておきますが、これは間違いです。

これをもって「アメリカントラディショナル」とするにはあまりに矛盾点が多過ぎますし、これを全ての人に押し付けるのは危険すぎます。

服飾業界の人や服に詳しい人、冷静になってよく考えてみてください。

 

実際アメリカでは、50年代半ば〜60年代前半のIVYルックの後、1967年あたりからカウンター・カルチャーが台頭し、IVYリーグのキャンパス内は、メッセージTシャツとブルージーンズ姿の学生で溢れかえったわけです。

いわゆるヒッピー・スタイルですね。

 

スーツにしても、50年代頃まではBrooks Brothersの「No. 1サックモデル」がアメリカエリート層の象徴でしたが、1960年代のケネディ大統領の登場で、事実上旧いアメリカの象徴となっていきます。

 

※詳しくは過去の記事に書きましたので、こちらをご覧ください。

※No. 1サックモデル…1900年に入りBrooks Brothersが発表したアメリカを代表するモデル。肩はナチュラル・ショルダーでウェストを絞らない寸胴型のシルエットが特徴。シングルブレストの段返り3ボタン、センターベント。

 

その証拠に、1961年にはBrooks Brothersがいち早く「No.2モデル」と呼ばれるウエスト部分を絞った2つボタンのスーツを新たな時代の象徴として発表しています。

 

ケネディ大統領の鍛えられた体に沿った、新しい時代を象徴する2つボタンスーツを仕立てていたのがBrooks Brothersだったことも、歴然とした事実です。(Brooks Brothersだけではないようですが)

これを皮切りに、現在に至るまでアメリカのスーツの主流はウェストを絞った2つボタンのモデルです。

 

そして、ケネディ大統領は公式の場でボタンダウンシャツを着用しなかった大統領としても知られています。

さらに、ケネディ大統領はハーバード大学卒のバリバリのアイビー・リーガーです。

 

つまりどういう事かと言うと、

アメリカン・スタイル=IVYルック=段返り3ボタン・ボタンダウンシャツ…という日本的な常識は、本国アメリカにおいて1960年の時点ですでに終わっていたという事です。

 

そしてちょうどこの頃…

 

日本でVANがIVYルックを大々的に提唱し、〝アメリカでは終わりかけのIVYルック〟〝過去のアメリカの象徴になろうとしているIVYルック〟が〝今のアメリカの象徴〟として日本中を席捲していきました。

現代のようにインターネットもSNSもない時代、当時のメディアの情報は大いに偏っていたことでしょう。

致し方のないことです。

 

こうして、

情報量に乏しい「島国日本」では、その後VANが倒産する1979年までの約20年を費やし、〝IVYルック〟=〝真のアメリカン・スタイル〟という構図が神格化されていきました。

 

まるでガラパゴス島の生き物のように進化をせず、完全にとり残されていったことになります。

 

その結果として、現在のような「アメリカントラディショナル=IVYルック」という、日本独自の常識が出来上がったと僕は考えています。

 

これが日本式「ガラパゴス・アイビー」の正体です。

 

これにより、多くの弊害が出ています。

最大の問題は、服飾関係者の多くがこの日本式「ガラパゴス・アイビー」の信奉者であることです。

 

現状これによって、お客様に間違った情報を提供していることになっています。

 

もう一つは、「VAN世代」の方々が「客層のメイン」として健在だったこと。

これは当然のことですが、「VAN世代」の方が持つアメリカントラディショナルの認識や常識は、ほぼ例外なく日本式「ガラパゴス・アイビー」です。

当時のブームをリアルタイムで経験しているだけに、若い販売員たちはそういった方々のお話を、長年何の疑いもなく信じてきました。

実際、20代のころの自分もそうでした。

 

こうして、日本に本当のことを正しく伝える人がいなくなってしまったという構図です。

 

しかし、

はっきり言ってこれは売り手側、つまり洋服屋の怠慢です。

 

服飾の歴史を勉強していれば、そういう方々のお話はある意味正しいが、「ある時点で時が止まっている」という事に気づくはずですからね

 

昔と違い、今は誰でも簡単に情報を入手できる時代です。

言い訳はできませんよ。

 

服飾業界で「アメリカントラディショナル」を正しく理解できている人は、残念ながらほんのひとつまみしか存在しないのでしょう…

 

ということで、序章が長くなってしまいましたが、

ここからは「アメリカントラディショナルとは何か」を論じていきます。

 

先に結論を述べておきます。

 

「アメリカントラディショナル」とは、以下の4つのカテゴリーの総称のことです。

 

1. 「トラディショナル・アメリカンスタイル」

2.「アイビー・ルック」

3.「ブリティッシュ・アメリカンスタイル」

4.「プレッピー・ルック」

 

次回から、この4つのカテゴリーを順番に解説していきますので、どうぞお楽しみに。

 

【参考文献】

コメント

  1. 匿名 より:

    あなたの考え方こそ間違っている。歴史的事実はそうであっても、人の趣向とは関係ない。石津健介氏の偉業を馬鹿にするような吹聴はやめて頂きたい。

  2. 門ちゃん より:

    僕もそこまで語れないですけどガラパコス全く同感です。
    話は変わりますが日本の量販店のスーツなどもガラパコス化していないか?と最近、考えております。

    • タニヤンタニヤン より:

      日本人の服に関する知識は、結構ガラパゴス化しているところが多いですよね。

      それが個性的という見方をすれば、良いところももあるんですが。

      でも、公的な場では白い目で見られているのが現状でしょうね。

      量販店もガラパゴス化って興味深いですね。

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