戦争とファッション 〜第一次世界大戦とトレンチコート【3】〜

戦争とファッション

〜第一次世界大戦とトレンチコート〜

【3】

 

こんにちは。

このブログは、

〝洋服屋の一生モノブログ〟というタイトルからも分かる通り、

キーワードは、〝一生モノ〟です。

 

「〝一生モノ〟というフィルターを通してモノを見る」

 

ことで、世の中に氾濫したモノを一度篩(ふるい)にかけ、

本当に良いモノだけを抽出していこう。

というのが大きなテーマです。

 

さて、今回も引き続き「戦争とファッション」と題して、第一次世界大戦とトレンチコートの関係性を紐解いていきます。

 

この「第一次世界大戦とトレンチコート【3】」では、

 

▪トレンチコート「初期型」から「完成形」へ

 

に焦点を絞って進めていきます。

興味がある方はぜひ、最後までお付き合いくださいね。

トレンチコート「初期型」から「完成形」へ

前回の「第一次世界大戦とトレンチコート【2】」では、

1915年に登場した「初期型トレンチコート」のディテールを詳しく説明しました。

 

おさらいすると、以下の通りです。

 

▪前ボタン10個

▪ミリタリー・カラー(ステンカラー)

▪セットインスリーブ(背広肩)

▪共地のベルト

▪両脇にマチ付きで大型の「パッチ&フラップポケット」

▪生地は、「カーキ・ドリル」(ギャバジンの表記はまだない)

▪インター・ライナー付

 

これが第一次世界大戦終結に向かう1918年までの3年間で、どう変化していったのでしょうか。

 

結論から言うと、

1918年頃にトレンチコートは、ほぼ現在の形になります。

 

逆説的に言えば、

現在僕たちが何となく着ているトレンチコートは、驚くべき事に、99年前からほぼ形を変えていないことになります。

 

それでは、

1918年頃に紹介されている、トレンチコートの広告と、70年代に製造されたアクアスキュータムのトレンチコートを見ながら、この事を検証していきましょう。

 

【1918年に掲載された、イギリスA・A・タンマー社パリ支店のトレンチコート】

【1970年代のものとして、文献に紹介されているアクア・スキュータムのトレンチコート】

これらの写真を参考に、1915年の「初期型トレンチコート」からの変化を見ていくと、

 

▪「チン・ストラップ」の追加

→上の図のように、襟を立てて着た時に、雨風の侵入を防ぐため、あご(チン)の下で襟元を固定するストラップが装備されました。

 

▪「ラグラン・スリーブ」の正式採用

 

▪右肩に「ガン・フラップ」の追加

→上の「A・A・タンマー社」のトレンチコートにはまだ現れていませんが、この時期に右肩部分に上からもう一枚生地が充てられます。

この仕様は、兵士が機関銃を打った際、肩への衝撃を抑える効果が期待されるとう事で考案されました。

 

▪両脇のポケットを「スラッシュ・ポケット」に変更

 

▪「Dリング」の登場

→ 共地のベルトは変わっていませんが、この時期から「Dリング」と呼ばれる真鍮製のホルダーが追加されていきます。(上の70年代製アクアスキュータムのベルト右下部分をご覧いただくとわかります。」

ここには、戦闘中兵士が手榴弾や水筒を吊るしていたと言われてます。

形がアルファベットの「D」に似ている為「Dリング」と呼ばれるようになったっもので、後ろにも2つ付きます。

 

▪エポーレットの役割の違い

   →両肩に付く共地ストラップの「エポーレット」は健在ですが、その役割が変化しています。

初期型トレンチコートでは、あくまで「憲章を吊るす為のもの」くらいの位置付けだったのに対し、この時期には戦闘中に肩から下げた荷物がずり落ちないようにロックする為のものとなり、一気にミリタリー仕様になっています。

 

【エポーレットの使用例】

 

▪生地名に「ギャバジン」の表記

 

以上のようなモデルチェンジが段階的に加えられ、トレンチコートは「完成」します。

 

そしてこれは、本当の意味での「完成形」でした。

 

それは、トレンチコートがその後アメリカに渡り、第2時世界大戦ではアメリカ陸軍が採用していたにも関わらず、その際ほとんど形を変えなかったことを考えても明らかです。

 

つまり、「それ以上変えようがなかった。」ということを意味します。

いつの時代もそうですが、戦争における「国の威信をかけた開発」には、凄まじい執念を感じます。

 

それにより、

色々な分野で、短期間での目覚ましい発展がもたらされたことも事実でしょう。

 

服飾分野は、その恩恵を大きく受けて発展しました。

 

しかし、

それが殺し合いを目的として進められてきたことを思うと、何ともやりきれない気持ちになってしまいます…

 

こういった感情の機微がギュッと凝縮されているのが、

戦争とファッション【1】」で紹介した、長澤均さんの文章なのです。

 

再掲しますので、もう一度じっくり読んでみてください。

「ファッションは束の間の夢でありながら、実用品のひとつである。それゆえ、戦争という流行とは無縁の〝殺し合いの場所〟でさえもファッションは進化し続けてきた。」

「戦争は、時として美しく合理的なファッションを生むが、ファッションが戦争を招来したことは一度もない。ただ一言、それは美しくないからだ。」

 

トレンチコートを題材にすることは、

「僕たちが今、どれだけ平和な時代を生きているのか。」

を改めて実感する、いい機会になります。

 

【追記】

当記事を再編集し、トレンチコートの歴史【完全版】を執筆しました!

トレンチコートの歴史 〜History of Trench coat【完全版】
...

 

【参考文献】

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