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アメリカントラディショナルとは何か? 【3章】知られざるブリティッシュ・アメリカンの衝撃

 

アメリカントラディショナルとは何か?

【3章】知られざるブリティッシュ・アメリカンの衝撃

 

こんにちは。

いつも「洋服屋の一生モノブログ」をご覧いただきありがとうございます。

僕は服飾業界に身を置く33歳です。

この業界でのキャリアは、今年で節目の10年に到達しました。

※詳しくは、運営者プロフィールをご覧ください。

 

「アメリカントラディショナルとは何か?」と題して記事を書き進めてきましたが、ここで少しおさらいしておきます。

まず最初に押さえておくべきは、

アメリカントラディショナルとは、20世紀のアメリカにおける4つのスタイルの総称である。ということでした。

 

そして、その4つのスタイルとは以下のようなものでしたね。

【1】トラディショナル・アメリカンスタイル(19世紀末〜20世紀初頭)

【2】アイビー・ルック(戦後1954年頃〜1960年代半ば)

【3】ブリティッシュ・アメリカンスタイル(1960年代後半〜1970年代)

【4】プレッピー・ルック(1980年代)

 

その上で1章では【1】の「トラディショナル・アメリカンスタイル」を取り上げ、

2章では【2】の「アイビールック」に焦点をあて、これが人為的に作られた「流行」であり「大衆ファッション」であったこと。

そして、これが日本をはじめ全世界にアメリカン・ファッションが広まるきっかけとなったことなどを書きました。

 

今回の3章では、

70年代にラルフローレンが仕掛けた【3】の「ブリティッシュ・アメリカン・スタイル」について詳しく触れていこうと思っています。

 

興味のある方はぜひ、最後までお付き合いくださいね。

 

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知られざるブリティッシュ・アメリカン・スタイルの衝撃

「ブリティッシュ・アメリカン・スタイル」とは簡単に言うと、それまでのアメリカン・スタイルをベースとした上で、新たに英国調のタッチを大胆に取り入れた「新しいアメリカン・スタイル」のことです。

評論家の間では、「ニュー・アメリカン・スタイル」とも呼ばれています。

それを仕掛けたのが、「ポール・スチュアート」と「ラルフローレン」でした。

 

【1章】【2章】でお伝えした通り、1950年までアメリカ国内はBrooksBrothersの「No. 1サックモデル」の時代で、それを着ることができるのは、ごく一部の富裕層やエリートに限られていました。

これが、全てのアメリカン・スタイルの原点である「トラディショナル・アメリカンスタイル」でした。

 

それが50年代後半から60年代に入ると、一般のアパレルメーカーにより模倣・量産され、誰もが着ることができる「大衆ファッション」となります。

これが「アイビールック」でしたね。

 

しかし、

そんなアイビールック全盛のこの頃にも、「アイビー・スーツは若すぎて子供っぽい」と思う人や、フレッド・アステアやクラーク・ゲーブル、ケーリー・グラントなど往年のハリウッドスター達が着こなしたブリティシュ・スタイルに憧れる人たちが少なからずいました。

【ケーリー・グラント】

【クラーク・ゲーブル】

その人たちに向け、フロントを2つボタンにしてウエストを絞り込み、サイド・ベンツを採用するなど、英国調のタッチを盛り込んだスーツを作っていた店がニューヨークにありました。

 

「ポール・スチュアート」です。

 

そう、実はこの頃すでに、その後の「ニュー・アメリカン・スタイル」に繋がる新芽が顔を出していたのです。

 

ですが、この「新芽」がその後ラルフローレンによって水と栄養を与えられ満開の花を咲かせるのは、もう少し後の話です。

 

さて、この頃ラルフローレンはというと、

大学を中退後、アメリカ陸軍に入隊しています。

1964年に除隊したあとはBrooks Brothersに入社し、1967年頃までセールス・パーソンとして働きます。

そして、

1967年にノーマン・ヒルトン財団支援のもと、自身のネクタイブランドを立ち上げ、その後1968年にヒルトン財団からブランドを購入し、独立。本格的に始動します。

 

そのラルフローレンが独立後取り組んたのが、新たに芽生えていたブリティッシュ・モデルを、独自の世界感でブラッシュ・アップし、「新たなアメリカン・スタイル」として確立させるという難題でした。

 

しかし、ラルフローレンはそれを見事にやってのけます。

 

こうして生まれたのが、その後新たなアメリカン・スタイルとして定着していく「ブリティッシュ・アメリカン」です。

 

その特徴はこうです。

◾従来のNo. 1サックモデル同様、肩は「ナチュラル・ショルダー」で、胸の部分も従来と変わらずゆとりがある。

◾しかし、全体のシルエットは従来のNo. 1サックモデルとは違い、ウエストで絞り込む。

◾2つボタンで上ひとつ掛け(No.1サックモデルは、3ボタン段返り中ひとつ掛け)

◾センターベントに加え、サイドベンツのものも多く登場する。

◾グレン・チェックなどの英国調の伝統柄を大胆に使用

 

【ブリティッシュ・アメリカン・スタイル】

 

1970年代にラルフローレンによって生み出されたこの新たなアメリカン・スタイルは、全米に波及し、その後瞬く間に現在のような不動の地位まで上りつめました。

 

これが意外と知られていない「ブリティッシュ・アメリカンの衝撃」です。

 

そして、

この時点をもって、現在の「アメリカン・スタイル」は完成しきったと言って良いでしょう。

ここから現在までは、ほぼ何も変わっていません。

現存するアメリカン・スタイルのスーツを考えてみても、

①Brooks BrooksBrothers のNo.1サックモデル

②ラルフローレンのブリティッシュ・アメリカンモデル

の2つです。

 

このように歴史を紐解いていくと、

19世紀末のカスタム・テーラーの時代を経て、20世紀初頭にBrooks BrothersのNo.1サックモデルが誕生し、それが量産時代の到来で発生した「アイビールック」という流行に乗って世界中に波及。

そして、

その中からアメリカと英国をミックスした新たな解釈が生まれ、1970年代にラルフローレンがそれを完成させた。

という、一連の流れが見えてきますね。

 

アメリカントラディショナルとは「アイビーだ、VANだ、ブルックスだ」「段返りのフックベントだ」「ボタンダウンだ」とか言う、まるでガラパゴス島のイグアナみたいな人が本当に多いので辟易してしまいますが、

「アメリカントラディショナル」とは本来、このような一連の時代の流れを指し、その中で生まれてきたアメリカ独自のスタイルのことを言うのだと僕は思っています。

そして、

その中で、現在アメリカントラディショナルの代表として挙がる「Brooks Brothers」「J.PRESS」「ポール・スチュアート」「ラルフローレン」の4つのブランドが各時代で果たした役割が特に大きかったということでしょう。

 

つまり、

アメリカントラディショナルとは、決して特定のディテールや特定のメーカー、ブランドを指すものではないということです。

 

 

と言ったところで、この章は終わりにして、

次回は最後の「プレッピールック」について触れ、アイビーとの違いを説明していきたいと思っていますので、どうぞお楽しみに。

 

【参考文献】

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