〝誠実な英国靴 Church’s〟
皆さんこんにちは。
早くも第7弾となりました〝一生モノの靴〟シリーズです。
これまでに6足ほど僕の〝一生モノの靴〟を紹介してきましたが、そのどれもがアメリカ靴で非常に偏ってしまっています…
と、いう事で今回はイギリス靴について紹介して行こうと思います。
中でも僕が特に紹介したいのが、「Church’s(チャーチ)」です。
では、さっそく〝イギリス靴産業の生い立ち〟から見ていきましょう。
1.靴の聖地ノーザンプトン
〝靴の聖地〟と呼ばれる地が、イギリスにはあります。
ロンドンから110キロ北西にある都市、「ノーザンプトン」です。
ここノーザンプトンは17世紀、清教徒革命で活躍したクロムウェル将軍が自軍の兵士の靴をオーダーしたことから産業の歴史をスタートさせました。
この当時はもちろん、手製靴の時代です。
そして、1879年 チャールズ・グットイヤー2世の手で、それまでの「ハンド ソーン ウェルト製法」が完全に機械化されたことによって、靴の一大産地として一気に花開きます。
現存する多くの英国名門シューメーカーが、この頃に誕生します。
1829年に「Tricker’s(トリッカーズ)」、1840年に「CROCKETT & JHONES(クロケット&ジョーンズ)」、1873年に「Church’s」、1890年に「EDWARD GREEN(エドワード・グリーン)」…といった具合で、20世紀初頭には、靴工場は数百に達していたと言います。
その後は1950年代から60年代をピークに、徐々に衰退していき、現在では両手の指で数えられるほどの数になっています…。
この靴産業の「栄枯盛衰」の物語は、以前お話ししたアメリカの靴産業やフランスのそれも同じような道を辿っています。
しかし、アメリカやフランスが往年の靴産業の原型をほとんど留めていないのに対して、〝靴の聖地〟としてのノーザンプトンの世界的評価は、今も揺らぐことがありません。
それは世界中の紳士が「Made in England」を信用しているし、作り手側も今尚、誠実なモノ作りを実践しているからに他なりません。
2.〝誠実な英国靴〟
その代表選手が「Church’s(チャーチ)」です。
このChurch’sは前述の通り、1873年トーマス・チャーチ氏により〝靴の聖地〟ノーザンプトンに誕生しました。創業当初は、主に軍用靴を製造していたそうです。
その後、英国を代表する名門シューメーカーとしてのポジションを確立していく中で、現在では常識となている様々な靴の〝基準〟を発明していきます。
例えば、ハーフピッチ(1/2インチ刻み)のサイズを採用したり、6段階ものウィズ(足囲)を設定しました。
ちなみに日本では、1965年に「大塚製靴」が輸入販売元となり、いち早く展開が始まっていました。
1965年といえば、東京オリンピックが開催された翌年で、日本ではようやく、一般庶民まで革靴が普及した時代です。
他の英国シューメーカーが本格的に日本での展開を始めたのが、1980年代ですので、いかに日本への展開が早かったかが分かります。
この為、日本のある年代層には、多くの熱心な「チャーチファン」がいるのです。
僕はその直接の世代ではありませんが、同じく「Church’s」の靴に魅せられたうちのひとりです。
3. Church’s(チャーチ)の永久欠番〝#73〟
では、ここで、僕の〝一生モノ〟のChurch’sを紹介します。
【オールド ・チャーチ 『CHETWYND』(チェットウインド)】
この靴の最大の魅力は、〝#73ラスト〟を使用していることです。
Church’sには、代表的なラスト(木型)がいくつかあり、ファンの間ではしばしば、その〝ラストナンバー〟に沿って話が展開されていくことがあります。
4.Church’sの代表的なラスト
ここで、代表的なラストをいくつか紹介しておきます。
#81ラスト
これはボリュームのあるトゥを備え、全体的に丸みのあるカジュアル顔のラストです。
1950年に登場し、現在まで支持され続けている定番です。
Church’sの現行ラインアップの中では、「BURWOOD(バーウッド)」「RYDER(ライダー)」「FAIRFIELD(フェアフィールド)」といったカントリーテイストのシリーズに使われています。
#103ラスト
Church’sのプレーントゥの名作として知られる「SHANNON(シャノン)」に現在使用されているラウンドトゥラストです。
「SHANNON」は、まるでアメリカ靴を思わせる武骨で男らしい雰囲気の中にも上品さが漂う非常に格好良い一足です。
そして…
#73ラスト
自然な丸みを帯びたスクエアトゥが特徴で、1940年に誕生して以来、およそ60年に渡り、主にChurch’sのドレスシューズラインを彩った、非常に美しい形状のラストです。
このラストを抜きにして、もはやChurch’sの靴は語れません。
「CONSUL(コンサル)」「DIPLOMAT(ディプロマット)」「CHETWYND(チェットウインド)」「GRAFTON(グラフトン)」などChurch’sスクエアトゥの傑作を数多く生み出した、今は亡き伝説的存在です。
Church’sが「PRADA」の傘下に組み込まれた1999年を最後に廃盤になることが決まった時、世界中のチャーチファンが悲鳴にも似た声をあげたことは、未だに記憶に新しい出来事です…
Church’sの現行コレクションでは、「#173」という「#73」を継承したラストで、上記の4つの定番モデルを継続して展開しています。
この#173ラストですが、#73に比べ、わずかにロングノーズ気味になっており、現代的で洗練された印象はありますが、全体的にクラシックな雰囲気はしっかり残していますので、これはこれで非常に格好良いです。
しかしながら現在では、プラダ買収前の旧ラストを使ったモデルは〝オールド・チャーチ〟と呼ばれ、現行のモデルとははっきりと区別されています。
今回紹介した『CHETWYND』も、この「オールド・チャーチ」です。
【オールド・チャーチ に見られるインソック】
【インソックの印字 】
【この靴は、Hウィズの為「#73」の中で最も幅広である「#273」が使われる】
【下段にはモデル名の「CHETWYND」が印字されています】
1980年代〜1990年代に製造された一足で、デッドストックの状態で購入し、今年で6年目を迎えています。
僕も、多くの「オールド・チャーチファン」と同じく、社会人になってこの靴を履いた時、この「#73」ラスト独特のスクエアトゥが醸し出す、クラシックな雰囲気に完全にヤラれてしまいました。
それ以来、手入れをしながら〝一生モノの靴〟として大切に大切に履いています。
永きに渡ってチャーチファンを魅了し続けた、伝説の「#73」は、現在Church’sの〝永久欠番〟となっています。
【参考文献】
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