〝穴飾り〟に秘められた真意
〜ウイングチップシューズ〜
皆さんこんにちは。
〝一生モノの靴〟シリーズ第8弾です。
今回は、〝ウイングチップ・シューズ〟についてその起源や歴史を紐解きながら、詳しくお話しして行きたいと思っています。
どうぞ最後までお付き合いくださいね。
【1】〝ウイングチップ〟とは何か?
「ウイングチップ」とは、爪先の切り替えにW型の穴飾りがある靴のことを言います。
この呼び名はアメリカでの呼称で、英国では「フルブローグ」と呼ばれます。
この「フルブローグ」を始め、アッパー(甲革)の縫い目に沿って、ブローギング(Brougueing)と呼ばれる『:⚫︎:⚫︎:⚫︎:』の形状をした穴飾りが線状に施される靴を総称して、〝ブローグ・シューズ〟と言います。
そして爪先には、メダリオン(Medallion)という花状の穴飾りが付くことが多いです。
さらに、この〝ブローグ・シューズ〟はその形状によって、3つに分類されます。
①『クオーター・ブローグ』
アッパー全体の縫い目に沿ってブローギングが施され、爪先の切り替え部分に「一文字」のブローギングが付くもの。花状のメダリオンは付かない。
②『セミブローグ』
アッパー全体の縫い目に沿ってブローギングが施され、爪先の切り替え部分に「一文字」のブローキングと花状のメダリオンが付くもの。
③『フルブローグ』
アッパー全体の縫い目に沿ってブローギングが施され、爪先の切り替え部分に「W型」のブローギングと花状のメダリオンが付くもの。
つまり「ウイングチップ・シューズ」は、(=フルブローグ・シューズ)なので、アメリカや日本で③の形状の靴を指してそう呼ばれているのです。
【2】ブローグ・シューズの起源
この独特の穴飾りが全体に施された〝ブローグ・シューズ〟は、16世紀〜17世紀にかけてスコットランドやアイルランドの湿地帯で履かれた労働用の靴や狩猟用の靴を起源とします。
湿地帯や、ぬかるんだ森の中を歩いて濡れた靴が少しでも早く乾くよう、アッパーに穴を開けたといいます。(これにより、水はけが格段に良くなりました。)
つまりブローギングとは、今日〝穴飾り〟と呼ばれているような「単なる装飾用」のものではなく、元々は一種の〝通気孔〟としての役割を担っていて、その靴の機能を保つために必要不可欠なものであったという事が分かると思います。
こうした起源を考えると、「ブローグ・シューズ」を履く用途として、
①冠婚葬祭には向かない。
②ツイード素材のジャケットやフランネル素材のトラウザーズとよく合う。
③サキソニーやフランネルなど、起毛感のある素材のスーツとよく合う。
といった事が、自然と導き出されますよね。
【3】Allen Edomonds 『the Mac Neil』
ここで僕の〝一生モノの靴〟の中から永年愛用している「ウイングチップ・シューズ」を紹介します。
【Brooks Brothers (Allen Edomonds『the Mac Neil』)】
Allen Edomonds(アレン・エドモンズ)の『the Mac Neil(マックニール)』という歴史の長いモデルです。
この靴の特徴を挙げると、
【1】「ロング・ウイング」という形状
【2】「グレイン カーフ」という素材
最初の「ロング・ウイング」とは、爪先の「W字型」のブローギングが途中で降下せず、そのまま踵まで伸びていく形状のもので、アメリカの「ウイングチップ・シューズ」に多く見られる大きな特徴のひとつです。
そして2つ目の「グレイン・カーフ」とは、いわゆる「シボ革」のことで、主に革の表面を手や機械で揉んで、凸凹のシワのような模様を作り出す仕上げを言います。
この「グレイン・カーフ」を使用する事で、「フルブローグ・シューズ」の本来の姿である〝狩猟靴〟としての顔にぐっと近づきますね。
こうすることで、水はけもさらに良くなるでしょうし、傷もより目立たなくなりますよね。
欲を言えば、色は黒ではなく茶系の方が雰囲気が増します。
現行コレクションでも不動の定番として、堂々展開されています。(BLACKのグレイン・カーフは通常展開していないと思いますが)
興味があれば、ぜひ実物を見に行ってください。
ちなみに、この『the Mac Neil』、
1950年代にはもうAllen Edomondsのコレクションにラインアップされていますが、当時はウイングチップではありませんでした。
ラストも含めて(#7ラスト使用)現行の形状になったのは、1964年になってからです。
【追記】
〜J.F.K.とウィングチップ・シューズ〜
アメリカ合衆国第35代大統領 〝J.F.K.〟ことジョン・フィッツジェラルド・ケネディは、『Allen Edomonds』のウィングチップ・シューズを愛用したと言われています。
(もちろん他の靴も沢山履いていたでしょうが。)
ケネディ大統領が愛用したとされるのが『the HARRISON』というモデルです。
これは、Allen Edomondsが1960年頃から展開していた『TOM,DICK & HARRY』というシリーズのひとつです。
ちなみに『TOM,DICK & HARRY』とは、日本語で「誰でもかれでも」とか「猫も杓子も」という意味です。
商業用に意訳すると「それだけ多くの人に認知されている有名なモデルですよ。」というニュアンスでしょうかね。
この『HARRISON』、非常に格好良いんですが、残念ながら現在では廃盤となっています。
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