〝靴を受け継ぐ〟
〜旅する靴〜
こんにちは。
第9回目の〝一生モノの靴〟です。
今回は僕が先輩から受け継いだ大切な一品を紹介し、そのことを通じて〝靴の製法〟に込められた様々なメッセージを読み解きたいと思っています。
どうぞ、最後までお付き合い下さい。
では、早速ご紹介しましょう。
【1】〝旅する靴〟
【Brooks Brothers ALDEN製 コードバン キャプトゥ】
この靴は、1年前に職場の先輩から受け継いだモノです。
そしてその先輩も同じく、入社時に当時の店長から受け継いだと話していました。
つまり2人のオーナーの元を旅して、縁あって僕の手に渡ってきました。
この子にとって、僕が3人目のオーナーです。
ところで皆さん、写真の靴、一体何年前のものだと思いますか??
実はこれ、17年前に製造された靴なんです。
つまり、今年で17歳(笑)
なぜそれが分かるかというと、ALDEN製の靴は、インソックに印字された数字の羅列から「製造年」と「製造月」が分かるのです。(主題から外れるので、判別法はここでは詳しく述べませんが)
それを辿っていくと、この靴は2000年12月に製造されています。
しっかり手入れをし、大切に履かれた靴はこの通り15年以上経過しても新品同様…いや、それ以上の輝きをもって、ドッシリと僕の足元を支えてくれています。
【2】「グッドイヤーウェルト製法」と「マッケイ製法」を考える
では、そもそもどのような靴が〝長く履ける〟のでしょうか。
それを大きく左右するのが「靴の製法」、つまり「ソール付け」です。
現在、既製品のドレスシューズは、主に2種類の製法でソール付けがなされています。
① グッドイヤーウェルト製法(複式縫い)
まず、最初にアッパー(甲革)と中底(ミッドソール)を縫い、それを1番外側の本底(アウトソール)に縫い付ける製法。
② マッケイ製法(単式縫い)
製法としての基本はウェルト式製法と同じですが、アッパーと中底と本底を一度に縫い付ける製法。
この2つの製法でしっかりとソール付けされた靴なら、まず間違いなく長く付き合うことができます。
両者を強いて比較するなら、
グッドイヤーウェルト製法の方が、アウトソール(本底)とアッパー(甲革)が独立しているため、「ソール交換時にアッパーへの負荷が少ない」という大きな利点があります。
マッケイ製法だと、アウトソールを外すと中底もアッパーも全部ばらけてしまう為、どうしてもソール交換時アッパーに一定の負荷がかかります。
しかし修理屋さんはその道のプロですし、致命的なダメージではないので、あまり神経質になる必要はありません。
グッドイヤーウェルト製法は、職人が全て手作業で靴を製造していた時代の製法を機械化したものですので、仕上がりも見た目も「質実剛健」で「重厚」です。
ですから必然的に、ドシっとした英国調のクラシックスーツにこの製法の靴が良く合います。
一方のマッケイ製法は、単純に工程の話だけで言えば「ウェルト式」の手順を省略したものと言えます。
しかし、ただ単に省略したというものではなく、ウェルト式の「ごつさ」と「重さ」を何とか解消しようと試行錯誤を繰り返した結果生まれた、〝歴史的発明だった〟と捉えた方が正しいのだろうと思います。
マッケイ製法の特筆すべき点は、その「軽さ」と「動きやすさ」にあります。
ですから、こちらは必然的にイタリアの軽やかでソフトなスーツに良く合うのです。
皆さんぜひ、自身のスーツスタイルに合わせて両者を選び分けて下さい。
そして、「自分の靴を次世代まで受け継ぐ」くらいの気持ちで靴とつき合ってみてください。
【3】2つの製法をもっと真剣に考える
洋服業界に身を置いていると、「紳士靴は、グッドイヤーウェルト製法のものじゃないとダメだ。」などという人が少なからずいます。
しかし、この2つの製法はそれぞれ思想が異なるもので、どちらが良い悪いというものでは決してありません。
長い靴の歴史の中で、「悪路を歩くため」「長距離を安全に移動するため」には、とにかく〝丈夫で水の侵入に強い靴〟を作る事が急務だったことは簡単に想像できます。
一方で、
例えば、宮廷での舞踏会などでダンスを踊るには、ウェルト式製法の靴ではあまりに重すぎたことでしょう。こういった背景の中で、必然的に軽い靴が求められたことも、想像するに難くないはずです。
このように両者は、歴史の中で誕生すべくして誕生したと言えます。
さらに付け加えると、20世紀の日本陸軍では〝軽さと動きやすさ〟を最優先し「マッケイ製法」を補強した靴を採用し、それに対し海軍は、耐水性を最優先して「グッドイヤーウェルト製法」の靴を採用しています。
このように本来靴の製法というのは、目的に応じて使う側がしっかりと選び分けるべきであり、その優劣を論じて自己満足に浸るものではないのです。
そういった議論は、はっきり言って時間の無駄なのです。
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