ALDEN 幻の職人技
〜スキンステッチ〜
こんにちは。
以前、『2つのモカシン 〜【北米式】と【スカンジナビア式】』で、
〝モカシンシューズ〟については詳しく触れました。
しかし、どうしても詳しく掘り下げたい「モカシン縫い」の技術がありますので、今回はそれをやります。
それは、今なお一部の高級紳士靴(既製靴)やビスポークシューズに職人が手作業で施す、
〝スキンステッチ〟という技術です。
特にALDENの靴に施される、驚きの職人技を取り上げてみたいと思っています。
興味がある方はぜひ、最後までお付き合いください。
【1】スキンステッチとは?
まず、そもそも「モカ」・「モカシン」とは一体何なのか?
一般的に、
「底から側面までは、一枚の柔らかい革で包み込むようにして作り、その上の甲部分にU字型の革蓋をかぶせ、その結合部分を革紐や糸で頑丈に縫い付ける」
こういった技法で作られた靴を、「モカシンシューズ」といいます。
その起源や現在までの変遷については、過去の記事(『2つのモカシン 〜【北米式】と【スカンジナビア式】』)に詳しいので、そちらをご覧ください。
さて、モカシン部分の縫い方ですが、今日では「機械縫い」と「手縫い」の両方が存在します。
言うまでもなく、手縫いの方が時間と熟練の技術を要するため、仕様としては高級とされています。
その手縫いの技術の中でも、極めて難易度が高く、限られた職人にしかできないとされている技術が、〝スキンステッチ〟です。
その技術とは、通常のモカシン縫いのように、革の表面から裏面に針を貫通させて縫い進めるのではなく、
「表面から針を通し、中間層にあたる〝床層〟の中で針先をターンさせ、裏面に貫通させることなく、再び表面に針を出す」というもの。
つまり…簡単に言うと、
硬い革の「表面だけを掬い(すくい)縫いする」ということです。
これを手作業で、延々と繰り返していきます。
これにより、ひと針ごとに手で縫い糸にテンションを加えることが出来るため、機械縫い以上に堅牢に仕上がります。
さらには、職人が手作業で行なう為、機械縫いでは決して得られない〝独特の表情〟に仕上がります。
中でも、特に貴重な職人技を見ることが出来るのが、ALDENのローファーです。
では、以前も登場した僕の〝一生モノのALDEN〟で、その驚くべき技術を詳しく見ていきましょう。
【2】ALDENの職人技
その技術が施されているのが、この靴です。
お馴染みの名作、ALDEN コードバンローファー(アンライニング)
この靴の甲の部分、ここに、手作業の〝スキンステッチ〟が施されています。
ではなぜ、ALDENのスキンステッチの技術が特筆して凄いかというと、理由は2つ。
1.コードバンという素材で作業を行う難しさ
ひとつには、この革の表面だけを掬い縫いする〝スキンステッチ〟の作業を、一般的に強靭な硬さを誇ることで有名な、「コードバン」という素材の上で行うという難しさがあります。
非常に硬く、針も入りづらいので、職人に相当な技術が要求されます。
2. 一枚革の状態(プレーントゥ)で作業する難しさ
そしてもうひとつは、
なんと驚くべきことに、〝一枚革の状態〟つまり、〝プレーントゥの状態〟で、「革を上に盛り上げながら、なおかつ表面だけを掬い縫う」という事をやっているのです。
〝一枚革(プレーントゥ)の状態〟というのは、下の写真のような状態を言います。
ここに、手作業で下のような〝スキンステッチ〟を入れていくのですから、誰もが簡単にできる技ではありません。
しかもこの作業を、下の写真のように、木型に吊り込んだ状態で行うのですから、さらに驚きです。
実際、ALDENの輸入代理店を務める「ラコタハウス」によると、ALDENの製造現場で、現在これを縫える職人は、2人しかいないそうです。
1足縫うのに小一時間。1日に10足できれば良い方だといいます。
技術の継承が急がれます。
ALDENの名作「コードバン・ローファー」
決して消滅させてはならない〝手作業の温もり〟が、この靴には確かにあります。
最後に、この記事の下にある「アンケート」に答えていただけるとありがたいです。
ご協力、どうぞ宜しくお願い致します。
以上、「洋服屋の一生モノブログ」運営者の谷やんでした。
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