〝靴を大切に履く〟ということ【3】
〜揃えるべき道具〜
こんにちは。
今回は、「靴を大切に履くということ」シリーズの第3回目です。
第1回目は、
「靴を大切に履く」とは、〝靴をメンテナンスすること〟であり、
「メンテナンス」とは、
①アッパーの「維持」(保革)
靴の顔である甲革の健康を、いつもベストな状態に維持しておくこと。
② アウトソールの「整備」
最も過酷な環境に晒されているアウトソールを、いつでも履ける状態に整備しておくこと。
と定義付けした上で、「②アウトソールの整備」の時期や方法などをお伝えしました。
第2回目では、「アッパーの維持(保革)」に入る前に、靴を履く上での基本である、
「シューキーパーの役割と重要性」についてお伝えしました。
興味があればぜひ、そちらもお読みください。
今回の第3回目は、いよいよ「アッパーの維持(保革)」に入ります。
特に、
①「靴を大切に履く」にあたって大切な〝心構え〟
②「アッパーを維持(保革)」する為に、最低限揃えるべき「道具」
この2点についてお話していきます。
【1】全てのモノに共通する〝運命〟
なんでもそうですが、全てのものはこの世に誕生したその瞬間から、「死」に向かってひたすら進んでいきます。
これは誰も逆らうことのできない、ひとつの「運命」です。
日本人はほとんど遺伝的に、このことをよく理解しているはずです。
「祇園精舎の鐘の声 、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。」
(平家物語 冒頭文)
「行く河の流れは絶えずして、もとの水にあらず。
澱みに浮かぶ泡沫は、かつ消えかつ結びて、久しくとどまることなし。」
(鴨長明 方丈記 冒頭文)
という古典は誰もが知っているはずですから。
当然それは靴にとっても同じことで、この「運命」には決して逆らえません。
【2】〝経年変化〟についての解釈
よく聞く言葉に、「経年変化」というものがありますよね。
皆さんはこれをどう解釈しますか?
次の◯◯の中に、適当な言葉を当てはめてみてください。
〝経年変化〟→ 時を積み重ねて◯◯していくこと。
この◯◯に何を入れるかで、その人の
- 〝靴(モノ)との付き合い方〟
- 〝靴(モノ)に対する考え方〟
が簡単に判断できるはずです。
◯◯の中に、
- 「劣化」「老化」というようなネガティブな言葉が入る人。
- 「成長」「熟成」というようなポジティブな言葉が入る人。
大体この2種類の人に分類されるはずです。
この〝経年変化〟に対する解釈の「小さな差」は、その後埋めがたい「大きな差」となって現れます。
〝靴を大切に履く〟とは、当然2の解釈です。
つまり…
「経年変化(時を重ねて〝熟成〟していくこと)を楽しみながら、メンテナンスを継続して行う」
という、この一言に尽きます。
ポイントは、メンテナンスを「楽しみながら、続ける」ということです。
【3】「楽しみながら、続ける」ためには
では、「楽しみながら、続ける」には、どうしたらいいのか。
大切なのは、以下の2点です。
①余計なことをしない。
これがぼくが考える、「最も大切な心がけ」です。
大体の人は、「保革」という5分でできて、靴が1番喜ぶことをやらずに、
- 頻繁に靴クリームをべたべたと塗りたくってみたり
- さらにその後、爪先や踵を無駄にポリッシュしてみたり
と、仕事が忙しい中大変な時間と労力をかけて、高価な靴を自ら「劣化」「老化」させています…
これは、時間と労力をかけているのに逆に「劣化」していく…。という、絵に描いたような「負のスパイラル」にはまっている状態です。
これでは、「楽しんで、続ける」ことはまず不可能です。
やるべきことは、1日履いたその夜に、
- ゆっくりと紐を解いて靴を脱ぎ、
- シューキーパーを入れてあげて、紐を結び直す。
- 使い慣れたブラシで万遍なくブラッシング(アッパー〜コバにかけて丁寧に)
- 「今日も1日ありがとう。」
これだけです。 5分で終わります。その後、2〜3日休ませてあげてください。
この5分足らずの作業を、日々の〝習慣〟として組み込めるかどうかが、靴を〝一生モノ〝にできるか、できないかの分かれ道です。
古いクリームを取り除き、新しく栄養クリームを染み込ませる。などの「中規模メンテナンス」は、
購入後しばらくは、1週間に1回、馴染んできたら、せいぜい2週間に1回で十分です。
②使いやすい、お気に入りの道具を揃える
もうひとつ大切なことは、「楽しんで、続ける」上での〝環境整備〟です。
そのために、上質で使いやすいお気に入りの〝道具〟を揃えましょう。
ここでも注意点は、「無駄なものをあれこれ持たない」こと。
大抵の人はここで、使いもしないものまで揃えたがります。
最低限揃えるべき〝道具〟は、
- シューキーパー
- ブラシ(豚毛と馬毛で2本)
- 靴の栄養クリーム(ニュートラル色と持っている靴と同系色のモノ)
- クリームを塗る布(Tシャツの切れ端など)
以上です。
最初は、これ以外のモノはいりません。続けていくうちに、何が良いモノかがわかるようになり、その時点で必要なものを適宜、増やしていけばいいのですから。
最初から必要以上に高価なものを買っても、
「猫に小判」「豚に真珠」です。
人に見せるべきは、しっかりと手入れされ、人と一体化した「靴」なのです。
靴を磨いている時の「あなた」には、残念ながら誰も興味がありません…
【4】〝僕の道具〟
最後に〝僕の道具〟をご紹介します。
特別なものはひとつもありません。どこにでも売っているものばかりです。
【メンテナンス・キット】
【メンテナンス・ブラシ】
【靴の栄養クリーム ニュートラル・ブラック・バーガンディ】
【左】クリームを塗る布 【中央下】余分なクリームを拭き取るグローブ 【中央上】コードバンの履きジワを手入れするホーン・スティック・コバの色を補色するエッジ・クレヨン(黒・ブラウン)【右】汚れを落とすステイン・リムーバー・靴べら
10年以上、これらを買い足して使っています。
繰り返しになりますが、
「経年変化」とは、時を重ねることで、そのモノ自体が〝熟成〟していくことです。
その「経年変化」を楽しみながら、継続してメンテナンスを行う。
その為に、
- 靴が本当に求めている、基本的な手入れを〝習慣化〟する。
- 〝習慣化〟するための環境整備として、然るべき道具を揃える。
〝靴を大切に履く〟とは、そういうことなのです。


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