古き佳きもの【1】
〜ALDEN コードバン キルティ・モックス〜
こんにちは。このブログは、〝洋服屋の一生モノブログ〟というタイトルからも分かる通り、キーワードは、〝一生モノ〟です。
「〝一生モノ〟というフィルターを通してモノを見る」ことで、
世の中に氾濫したモノを一度篩(ふるい)にかけ、本当に良いモノだけを抽出していこう。というのが大きなテーマです。
ここでは、「古き佳きもの」と題して、
僕が所有しているヴィンテージ・シリーズの中から、
特にユニークな仕様を残しているものを紹介していこうと思います。
古い靴のユニークな仕様
今回は、「ヴィンテージ・シューズ」の中から、
ALDEN コードバン・キルティ・モックスをチョイスしました。
【VINTAGE ALDEN コードバン・キルティ・モックス】
ここで、
「キルティ・モックス」
と言う、聞き慣れない言葉が出てきましたね。
そもそもこの「キルティ・モックス」という靴の種類自体、
現在では姿を消しつつあります。
「キルティ・モックス」は、
正確には「キルティ・タング・シューズ」という靴の一種です。
「キルティ・タング・シューズ」とは、主にゴルフ用に考案された靴で、
特徴は、甲部分にフリンジ状に刻まれた「舌革」がつけられていること。
この舌革が「キルティ・タング」と呼ばれます。
【キルティ・タングの部分。 この靴はさらにタッセルがつけられている珍しい仕様です。】
「キルティ・タング」の〝キルティ〟は、
スコットランドの民族衣装である、「キルト・スカート」のプリーツ部分に形が似ていることに由来します。
「キルティ・タング」の〝タング〟は、舌ですね。
実にユニークなネーミングです。
「キルティ・タング・シューズ」のトゥ(爪先)部分の形状は、フルブローグ(ウイングチップ)の場合が多く、
理由はゴルフ用なので、当然水捌け良さにあります。
そして、その水捌けの良いフルブローグが採用されたトゥの上に装着されるのが、「キルティ・タング」です。
装着の目的は、ずばり「泥除け」。
この「キルティ・タング」で水気や泥を弾き、完全シャットアウトするのです。
そして、この「キルティ・タング・シューズ」の中で、トゥ部分が「モカシン縫い」になっているものを、
「キルティ・モックス」と呼ぶわけなんです。
1890年代末にゴルフ用として誕生し、その後ゴルフ用のみならず、タウン用としても履かれましたが、
近年はあまり目にすることがなくなりました。
タウン用としては、絶滅危惧種と言っていいでしょう。
僕が古いものを買う理由
「温故知新」
→古き佳きものからしっかり学び、その上で新しいものを知る。
僕が服飾を考える上で、1番大切にしていることです。
このブログの中でも再三言っていることですが、
僕たちは歴史の中において、
先人達が知恵を絞り生み出したモノの恩恵を、
知らず知らずのうちに受けて生きています。
衣服はその最たるもので、
それを知った上で着用することは、非常に意味がある事だと僕は思っています。
古いものを実際に見て触れる事で、現在は失われてしまった、様々な仕様やディテールに出会うことができます。
そしてそれを丁寧に検証することで、様々な歴史的背景や、それらの細かなディテールが持つ驚きの機能性など、色々なことが解ってきます。
今現時点で存在している洋服は、様々な歴史を積み重ね、現在の形になったものです。
それも2017現在、たまたまその形をしているだけであって、
50年後、100年後は違う仕様が追加されているかもしれないし、逆に何かが削ぎ落とされているかもしれません。
つまり、
今、僕たちが目にしている洋服は、時代という時間軸の中で、刻々と変化している途中のものなのです。
そう考えると、ますます奥深いと思いませんか?
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