アメリカの発展を足元から支えたブーツ
〜RED WING物語〜
【3】
こんにちは。
このブログは、〝洋服屋の一生モノブログ〟というタイトルからも分かる通り、キーワードは、〝一生モノ〟です。
「〝一生モノ〟というフィルターを通してモノを見る」
ことで、世の中に氾濫したモノを一度篩(ふるい)にかけ、本当に良いモノだけを抽出していこう。というのが大きなテーマです。
これまでの『RED WING物語【1】【2】』では、
■20世紀初頭のアメリカ国内において、靴の需要がピークを迎えていた。
■靴産業が飛躍的な発展を遂げた
という時代背景の中で、1905年チャールズ・ベックマンとその仲間14人によって、「レッド・ウィング・シューカンパニー」が設立されたこと。
「靴の機械縫いによる大量生産」という前例のない事業に試行錯誤しながら、苦しみ抜いた設立当初の状況。
そんな中、
「同じ顔をした量産品ではなく、地元ミネソタのワーカー達が本当に必要としている靴を作ろう。」と考えを改め、モノづくりの原点に返って、「地元の様々な職種の人々に特化したワークブーツの製作に専念する」という、勇気ある決断を下したこと。
結果この英断が、RED WINGの技術力を全米に知らしめることとなり、その後RED WINGが破竹の勢いで成長したこと。
そして1921年、
第3代社長にJ.R.スィージーが就任したことで、RED WING史にとって大きな大きな転換期が訪れるのです…
とまあ、こんな具合で話を展開してきました。
今回の『RED WING物語【3】』では、
そのJ.R.スィージー社長の挑戦と、その努力の先にあった歴史的名作「アイリッシュセッター・ハンティング・ブーツ」の誕生について迫っていきたいと思います。
どうぞ最後までお付き合いください。
【1】J.R.スィージー社長の挑戦
1921年に、RED WINGの第3代社長に就任したJ.R.スィージーは、1920年代の世界大恐慌と、その後の第2次世界大戦という激動と苦難の時代をくぐり抜けながら飛躍的に業績を伸ばした人物です。
その過程で革新的なモデルを次々と生み出し、そのヘリテージ(伝説)を不動のものにしました。
そのひとつが、ワークブーツにラバーソールを採用したことです。
これは当時、世界を驚かせた「前例なき挑戦」でした。
と言うのも、
今でこそラバーソールのワークブーツは珍しくないですが、1920年代当時はそのソールに皮以外の素材を使うなど、誰も考えたことのない突飛な発想だったのです。
世界においてその先陣を切ったのが、RED WINGでした。
ラバー素材には超えなければならない点がいくつかありました。
まずは、
温度差に弱いこと。
冬の気温が零下30度を下回るミネソタ州の農夫の足を果たして守れるのか。という不安が常についてまわりました。
さらに、
油や薬品への耐性も低いということ。
機会油にまみれた現場で働く地元のワーカー達に、満足してもらえるレベルにまで品質を高めないといけない。という技術的な難しさもスィージーの頭を悩ませます。
それでもスィージーは諦めることなく研究と試作品作りを繰り返し、ラバーソールの採用にこだわり続けました。
そして、苦悩の末「グロコード」や「キングビー」といったラバーソールが生まれ、実際30年代には様々なモデルに採用され、着々とラバーソールのワークブーツは知名度を上げていきます。
その後、40年代の第2次世界大戦に足を取られながらも、新たな素材や技術に挑戦し続け、決して歩みを止めることはありませんでした。
そして、
足かけ30年以上の月日が流れた、1950年。スィージーの努力が報われる時がやっと訪れます。
〝初代アイリッシュセッター〟「854」の登場です。
その後、
この「854」を改良した「877」「875」の誕生で、ワークブーツとしてのRED WINGの世界的地位は不動のものとなります。
【2】歴史的傑作 〝アイリッシュセッター〟シリーズの誕生
名作〝アイリッシュセッター〟が産声をあげる少し前、
カリフォルニア州の革鞣し業者のレオ・メテンが、レッドウッドツリーの皮を使って鞣したオレンジ色の革を開発します。
その名は、「オロ・ラッセットレザー」
この革はしなやかで弾力性に富み、オイルタンを施しているため防水性にも特に優れていました。
これに惚れ込んだスィージーは、すぐさまオロ・ラッセットレザーの使用権を取得します。
この素材との出逢いはスィージーにとって、さらにはRED WINGにとって、まさに運命的なものとなりました。
こうして1950年、名作ブーツが産声をあげます。
モデルNo.「854」、愛称は〝アイリッシュセッター〟
いわゆる、初代 アイリッシュセッターです。
この愛称は、アッパーに使用するオロ・ラセットレザーの色が、ハンティング犬「アイリッシュセッター」の毛の色に似ていたことから採られたものです。
このブーツには、ヒールがついている「キングビー」という白いラバーソールが採用されました。
【初代アイリッシュセッター 「854」】
【キングビーソール】
【アイリッシュセッター】
さらに、
この「854」に改良を加え、1952年に発売されたのが、
RED WING最大のヒット作となる〝2代目アイリッシュセッター〟の「877」です。
【2代目アイリッシュセッター 「877」と「875」】
そしてこの時、
その後オロ・ラセットレザーと並んでRED WINGの代名詞的存在として語り継がれる、ヒールのないホワイト・ラバーソール「トランクション・トレッド」が生まれています。
1954年には、〝3代目アイリッシュセッター〟「875」が登場。(上の写真右)
くるぶしを包むくらいの6インチ丈で、さらに実用性がアップし、ワーク・スポーツ・アウトドアと幅広い人気を博しました。
これら「877」「875」は、今も基本的な形は変わらぬまま、ロングセラーとして堂々とラインナップされています。
【3】名作の共通点
名作・傑作と呼ばれるものは、決してデザイナーの思いつきや一時のトレンドから生まれるものではありません。
時代の流れに寄り添いながら、使う人が本当に必要とする要素や機能を追求し、持てる最高の技術を駆使して初めて形になります。
このような作業をとことん突き詰めて完成したプロダクトからは、作られた時代背景や土地の風景、関わった人々の熱い想いといったものがオーラとなって自然と立ち昇ってくるものです。
「地元ミネソタ州のワーカー達が本当に必要とする靴を作りたい」
という、創業者チャールズ・ベックマンの熱い想い。
「過酷な環境で働くワーカー達に、柔らかくて疲れない快適なラバーソールを」
という、J.R.スィージーの切なる想い。
RED WINGのワークブーツから放たれる独特のオーラは、
西部開拓時代後のアメリカを切り開いたワーカー達と、ミネソタ州の小さな街で靴作りに人生を賭けた男たちの誇りに裏打ちされているのです。
【4】僕が愛用する アイリッシュセッター「875」
最後に、僕が学生時代から愛用している〝アイリッシュセッター〟「875」を紹介して終わりにします。
【アイリッシュセッター「875」】
【トランクション・トレッドソール】
【参考文献】
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